第10章 犠牲と招集
もう風音は実弥に視線を送ることは出来ない。
口元を押さえている手の力が強くなり震え出したからだ。
「テメェが余計なことペラペラ喋りやがるからこうなっちまったんだろうがァ!目ェ逸らしてんじゃねェぞ、おい……」
どうしてだろう。
実弥の顔は絶対に怒っているに違いないのに、声音が少し寂しげに風音には聞こえてしまった。
そうなると抱き着きたくなる衝動に駆られ、勢いよく胸の中に飛び込もうと体勢を整えいざヒョイと身を躍らせると……意外にもすんなりと受け入れられてしまい驚いた。
「……あれ?実弥さん……?ーーっ?!んーー!!」
叱られ頭を掴まれると思ったのに、返ってきたのは口付けだった。
口を開けば恥ずかしくなるようなことを言う風音をどうにかしなければと実弥が考えた結果、一番効果のある二人の前で口付けをして恥ずかしさから押し黙る風音の特性を生かした方法だ。
「おーい、いつまでやってんだぁ?このままだと俺の目は煉獄に塞がれっぱなしなんだがなぁ。いいじゃねぇか、言葉で言うくらい。てか俺らの前で接吻する方が恥ずかしいだろうが」
天元の不服な声に風音から唇を離すと……可哀想に本日二回目となる気絶と相成ってしまう寸前まできていた。
「うっせぇ……煉獄が毎回ご親切にも見ねぇようにしてくれてんだからこっちのが恥ずかしくねぇだろ」
価値観の違いなのだろう。
風音にとって刺激の強い実弥の行動は、実弥の目論見通り風音を静かにさせるには効力を存分に発揮し、今は大人しく……と言うより微動だにせず実弥の胸の中に滞在中だ。
「で、ちっとは堪えたのかよ?」
「ん……うん、倒れそうなくらい」
ふらふらと実弥から体を離しちょこんとお行儀よく、俯いて大人しく座り出した。
「ふむ……少し可哀想な気もするが。風音、俺も自分の素直な気持ちを相手に伝えることはいいことだと思うぞ!不死川は照れているだけなので、これからも変わらず伝えてやるといい!」
実弥が全員の希望の食事を店員に注文してくれだしたことをいい事に、風音の元気な口が回復する恐れのある言葉を杏寿郎が笑顔で自信満々で語りかけだしてしまった。