第10章 犠牲と招集
突然意識が浮かび上がってきたように感じた。
その感覚に身を委ね重い瞼をゆっくり開くと見覚えのある天井と見覚えのある部屋、襖があって……
「嘘?!ちょっと待って……私……うわぁ、竈門さんと頭ぶつけて気を失ったんだった。柱の皆さんの前で!どうしよう……お庭には行けないけど襖の外くらい見てもいいよね?」
静まり返った部屋の中だと時間なども全く分からないので、今の状況を確認すべく襖の前に立ちゆっくりと開いていたら、いきなりその速度が上がって人の姿が現れた。
「?!あれ?あ、実弥さん!ビックリしたぁ……よかった、まだ外は明るいみたい。それより実弥さん怪我ない?……腕!腕切れてるよ?!手当てしないと……うーん、それとも仔細報告が……」
次から次へと言葉が出てくる風音の口元が実弥の手の平で軽く抑えられた。
どうしたのかと見上げると、少し悲しげな顔をした実弥が見えて風音の眉もつられて下がる。
「落ち着け……お前、脳震盪起こして気絶してたっつーのによくそんなに喋れんなァ」
「ふぐ……」
「……悪かった。煉獄と宇髄がお前を庇ってなかったら吹き飛ばしてた。お前がどうってわけじゃねぇけど、何で止めんだって苛立っちまってなァ」
杏寿郎に遠くへ運ばれ天元に背に庇われて瞳に映し出される風景が目まぐるしく変わっていたので、実弥がそうしたことをしかけていたなど風音は今初めて知った。
例え見えていたとしても、杏寿郎の言っていた通りあの状況で手を掴もうとすれば振り払われ吹き飛ばされても文句など言うはずもない。
「ふ……ふぅ。私こそごめんなさい。私の気持ちを汲んでくれてたからこその行動だったのに嫌な気持にさせてしまって。その……今少し時間大丈夫?」
口元から外された手をキュッと握って首を傾げると、実弥は小さく笑いながら頷いてくれた。
「あぁ、今は中休みの時間だからなァ。腹減ったろ?飯食いに行くか?」
嬉しいお誘いに頷きかけたが風音には先にしなくてはならない事がある。
「実弥さんの腕の怪我の手当てをしてから、ね?」
「……頼むわ」
差し出された腕についていたのは刀傷。
疑問は残るが実弥にとって貴重な中休みの時間をここで消費は出来ないので、手早く処置を終わらせてから食事処で聞くことに決めた。