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涼風の残響【鬼滅の刃】

第2章 柱


店の外から見えた金魚を眺める風音の後ろ姿があまりにも楽しそうで、その時は人の気も知らず呑気に金魚を堪能している風音に苛立ちを感じてしまった。

それで思わず怒鳴りつけたのだが、昨夜多くの悲しみや絶望を味わった少女に対して厳しすぎたのではとの思いにかられ、こうして店主に開店期間を確認したのである。

「そうかィ。ちょっと考えさせてもらうわ。俺の連れが世話んなったなァ」

そう言って実弥は手に持っていた小さな包みを店主へ手渡し、風音が待っている店の外へと暖簾をくぐってゆっくりと出て行った。

実弥を見送ったあと手渡された包みを店主が開けて中身を見ると、思わず強ばっていた表情が綻んだ。

「見かけによらず可愛らしい坊ちゃんだ!」

包みに入っていたのは小ぶりのおはぎ二つだった。





「おい、宿に帰んのは早ェぞ」

そんな言葉を呟かれていたなどと知らない実弥は、宿へと足を向けた風音の手首を掴み宿とは反対の方角へと引っ張り歩く。
もちろんどうしてそうなったのか分からない風音は、頭の中に疑問符を多く浮かばせながらヨタヨタと足をふらつかせ引っ張られるまま実弥の後を追っている。

「不死川さん、どこかにお買い物ですか?それなら私が買っていくので、不死川さんは宿で休んでてください。就任式でお疲れでしょう?」

覚束無い足元をどうにか元に戻し先を歩く実弥に声を掛けるも、一向に緩まる気配がない。
代わりに返ってきたのは衝撃的な言葉だった。

「……後付けられてんだよ。このままだといい見せもんになっちまう。巻くぞ、走れェ!」

誰に後をつけられているのか、何故後をつけられているのかなど聞きたいことがいくつかあるものの、今の少し不機嫌な実弥の様子から聞くことが憚られたので、実弥が走り出すと同時に風音は首を傾げながら走り出した。



そうして暫く走り続けた今……容赦ない実弥の速度に風音の肺と足が限界を迎えてしまっている。
もはや走っていると言うより実弥に引き摺られているような様相だ。

「不死川……さん!も、無理です!私の足……ほとんど動いてない、から!」

風音の顔はさながら重篤者のそれである。
それをチラと確認した実弥は慌てて立ち止まり、風音を支えながら道の端へと移動した。
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