第10章 犠牲と招集
どうも風音は実弥の思うようになってくれない。
別に実弥とて泣き喚かれて抵抗されたかったわけではないが、こちらが感情的に怒鳴った時くらい感情的に返してもらえないと勢いが削がれてしまう。
そして冷静になり八つ当たり気味に怒鳴り散らしたことに対する罪悪感にじわじわと侵食されていった。
「すぐ泣くくせにこんな時は一切泣かねぇなァ……んだよ、俺ばっか喚き散らして情けねぇ。もういい、ここで……」
「あの……大きな声が聞こえたのですが大丈夫ですか?不死川様、もう他の柱の方は皆さんお揃いになられていますよ」
せっかく気持ちが落ち着き風音の手首を離そうとしたのに、少し大きめの木箱を持った隠が襖を開けて顔を覗かせたことにより、その手の力が先ほどより強くなってしまった。
(いっ?!痛……くないけど!……あの木箱の中、鬼の気配がする。これは非常によくない状況……のような)
実弥を刺激しないようそっと見守っていると……予想通り目を血走らせ、お馴染みの血管を顔全体に浮き出させて怒りを露わにしていた。
「おォい……その木箱渡せェ。裁判するなら当事者いなくちゃ話しになんねェもんなァ?!」
「え?!あ、不死川様!困ります!これは別室で……箱をお返し下さい!」
まさに怒髪天。
実弥は涙目で追いかけて来る隠を振り払い、静かにしている風音の手首を強い力で無意識に掴んだまま廊下を大股で歩き柱の皆の元へと足を動かした。
「……実弥さん、隠の方が困ってしまって」
「うっせェえ!黙ってろォ!」
もはや風音を引っ張っているなど考えつかないようで、部屋で待っていろと指示を出した風音を勢いのまま引き摺っている。
「すみません……私の存在にすら気付いてもらえなくて……」
「貴女は不死川様の継子の……いえ!でもどうしよう、柱の人に怒られる!」
こうして会話を繰り広げていても実弥の耳には一切響かず、戸惑い慌てる二人の存在に気付かぬまま草履を引っかけ庭へと飛び出した。
……もちろん風音はブーツに足を入れる暇があるわけもなく、悲しきかな足袋のまま庭へと降り立ってしまう羽目となった。