第10章 犠牲と招集
日が昇りしばらくして風音が目を覚ましても実弥はまだ部屋の中にはおらず、姿を現したのは随分と日が高く昇った頃だった。
事前に準備を済ませていた風音は、任務帰りの実弥に連れられて産屋敷邸の一室に身を置いている。
「また呼びに来るからここで待ってろ。馬鹿隊士の裁判終わってからなんでなァ……すぐにってわけじゃねぇけど」
「裁判?隊律違反をおかしたから裁判するの?……その、竈門さんはどうなるの?」
言わなきゃよかった……実弥の頭の中はこれ一色に染まった。
鬼を連れてるとは言え面識がある剣士が裁判にかけられるとなると、風音は心の中で悲しむからだ。
隊律をおかし柱によって裁判に掛けられるということは、最終的に斬首されることを意味しているのだから。
だが実弥には風音が悲しむことが理解出来ず、悲しげに瞳を揺らせた少女にいきり立った。
「……どうなるかなんて分かってんだろ?そうなって当然だと思わねぇのか?お前の父ちゃんも俺の母ちゃんも鬼になっちまって、俺たちはこの手で亡きものにしたんだぞ!」
「そうだけど!そうなんだけど……私もね、どうして竈門さんの妹は討伐されないのって思うよ。でも何か理由があるんじゃないかなって……」
風音の言っていることも実弥だって分からないわけではない。
だがそれを受け入れられるかはまた別の問題で、悲しい顔なんてさせたくなくとも昂った感情はおさまらず声を荒らげてしまった。
「理由あれば許されんのかよ?!俺たちがどんな思いで……お前だってどんだけ苦しんだ?親が鬼になっちまってたって知って引け目感じて泣いて……クソッ、来い!」
今まで数え切れないほど任務や稽古で叱られたが、それ以外で声を荒げられたことがなかった風音の瞳に戸惑いと悲しみが浮かんだ……のだが、それは一瞬だった。
手首を握る実弥の力は決して弱くないはずなのに、やはり平然としているように見える。
「……抵抗しねぇのかよ」
「しないよ。だって実弥さんは誰かを思って怒ってるから。私であったり実弥さんのお母さん、ご兄妹……あとは私のお父さんも。どうして裁判の場に連れてかれるか分からないけど、実弥さんが着いて来なさいって言うからには理由があると思うの。だから抵抗しないよ」