第10章 犠牲と招集
心做しかしょんぼりする風音に溜め息を零し、額の傷に薬を塗って布を当て包帯で固定して完了させる。
「忙しい奴……俺は別に優しかねぇし、しっかりもしてねぇよ。階級は上がれば自ずと背負うモンも重くなるが、それを放り出すことさえしなけりゃ、お前がわざわざ変わる必要ねェだろ。悲しいなら泣いとけ、泣かねェ風音なんて反対に心配なるわ」
そう言って風音の頭を撫でる手は手当をしている時と同様に壊れ物を扱うかのように優しく、滝かと思うほどに永遠と流れ続けていた涙を少しずつ止めてくれた。
「うん。実弥さんがそう言ってくれるなら、それでいいかな。あと……任務の合間なのに様子見に来てくれてありがとう。今からまた任務だよね?」
「通り道だから気にすんな、それよりお前。風呂入って先に寝てろ。お前も明日、お館様の屋敷に呼ばれてんだ。那田蜘蛛山での仔細報告なんだがなァ……ちゃんと説明してくれよ」
涙が止まったが風音の動きも止まった。
仔細報告をしないといけないなんて初耳であり、正に晴天の霹靂だ。
「えっ……仔細報告……私、動き回って救護に徹してたから、鬼がどんなのだったかとかは分からないよ?何を話せば……」
「聞かれたことに正直に正確に、擬音語なしで答えりゃ問題ねェ。馬鹿みてぇにバッとかシュッとか言ってくれんなァ。あぁ、あれだ。薬の説明するみたいな感じで話せば、いいな?」
不思議なことに風音は薬の説明となるとすらすらとわかり易く説明できるのに、なぜかそれ以外の説明が壊滅的に下手である。
それに通ずる者がいれば伝わるのだろうが、一般人にはまず通じない。
本人はそれでも真剣なのだから致命的だ。
「つまりいつも通りってことだね。分かった!あ、最後に一つだけ知っていたら教えてほしいことがあって……あの、竈門さんって剣士のこと知ってる?鬼の……確か禰豆子さん?だったかな。なぜか那田蜘蛛山から拘束……されて本部に……実弥さん、怒ってる?」
いつも通りと解釈した風音にゲンナリした表情になったかと思うと、剣士の名前を聞いた途端、血が吹き出すのではと心配になるほど顔全体にハッキリと実弥の顔に血管が浮かび上がった。