第10章 犠牲と招集
何を謝るというのか。
実弥が爽籟から聞いた話によると、鬼がいつ現れるかとも分からない夜の山の中を一人駆けずり回り、怪我人を見つけては処置を施し幾人も救ったという。
その証拠に体には山の中を移動する際に枝などでついたと思われる小さな切り傷擦り傷が多くある。
それに加え隊服には風音のものでない血で汚れており、額にはぶつけて擦ったたような傷があった。
「俺たちは神様じゃねェんだから、そこかしこに点在する怪我人全員は助けられない。……お前が看取った奴ら、誰か一人でも恨み言言ったかよ?もっと早く来てくれれば、もっと医療の技術を持ってくれてればってよォ」
声を押し殺し咽び泣く風音の頭を撫で問いかけると、その頭を左右に振ってそんなことはなかったと示してきた。
「最期に……お前に看取ってもらえたのが救いになった奴もいる。お前があそこに行ったことは、それだけでも無意味じゃねェだろ。もう泣くなァ……額、手当てしてやっから顔上げろ」
分かっていたことだが顔を上げた風音の頬には未だに涙が伝っており、拭っても拭ってもキリがない。
(……泣きやまねェ。よくまぁ毎回剣士死ぬ度にこんだけ泣いて鬼殺隊続けられんなァ)
ここまで泣くことは稀だが、任務から家に戻ると風音の目が腫れていることは多々ある。
かと言って辛い、悲しいなどを実弥に訴えてくることはないので敢えて実弥もそれに触れていない。
風音も普段はそれを望んでいるしそれでよかったが、今回の件は自分の中で消化しきれなかった故の涙と言葉だろう。
「ったく、顔ぐしゃぐしゃじゃねェかァ。じっとしてろよ、あ"ぁ"……泥も拭わねェで。女なんだからせめて顔の傷くらい気にかけろよ」
頬に手を当て水で湿らせた手拭いでそっと傷周りの泥を拭ってやっていると、その手に冷たくなった手を重ね合わされては涙で濡れた瞳で見つめられる。
こうも至近距離で見つめられては実弥としても居心地が悪い。
「何だァ?他にもどっか痛ェとこあんのかよ?」
「ううん、どこも痛くないよ。私、兄妹はいないけど長女でしょ?実弥さんは長男で優しいのにしっかりしてるから、私との頼り甲斐の差に愕然としてたの。私ももっとしっかりしなきゃなって……もう乙だし」