第10章 犠牲と招集
麓に到着した時、ここに来ていた柱の二人、しのぶと義勇は既にそこにいたので実弥の件で先に謝っておこうかと思ったのだが、剣呑な雰囲気が漂っており口に出来ず、しのぶに労ってもらって早々にその場から立ち去った。
そして今は実弥に指定された宿で、お叱りがしたためられているであろうお手紙を手に涙目になっているところだ。
「あんまり見たくないけど……実弥さんからのお手紙は読みたい。実弥さんの字、力強くて好きだし」
日々少しずつ実弥に文字を教え、今や実弥は平仮名、片仮名はもちろん漢字まで書けるまでに成長していた。
ただ文字の書き方を知らなかっただけで、教え出すとみるみる吸収し、最近ではお小言の手紙を書いてくるほどである。
内容はどうあれ綺麗で力強い字は風音の琴線に触れ、全ての手紙を自分の部屋に保管しているのは実弥には秘密だ。
やはり保管が決定されている手紙を開かないなど愚の骨頂だと思い直し、荒々しく名前のしたためられた封を開けてほぼ勢いで手紙を読み始める。
「え……こんなのズルい……叱ってくれた方が……涙なんて」
『おい、コラ。何マジで向かってんだ。
本来なら見なくていいモン見ちまっただろ。
すぐに向かうから泣かずに待ってろよ』
お叱りではなく、那田蜘蛛山で多くの剣士を救護し……多くの剣士を看取った風音への計らいの手紙だった。
楓の暖かさで癒されていたはずの胸の傷が再び開き、那田蜘蛛山での出来事が風音の頭を巡って涙が止めどなく流れてくる。
「実弥さん……泣かずに待てなんて……無理だよ」
「風音……って泣いちまってるし。ほら、こっち来い」
いつもなら実弥の足音で到着したことに気付いていたのに、この時ばかりは看取った多くの剣士の最期で頭が満たされて気付けなかった。
それでもこうして汗を滲ませ風音に歩み寄り、腕を広げてくれている実弥の姿を見ると反射的にその腕の中へと飛び込んで行った。
「ごめんなさい……間に合わなかったの。予知で見たのに間に合わなくて、看取ることしか出来なかった。助けたかったのに……私の腕じゃあ止血すらままならなくて。ごめんなさい……」