第10章 犠牲と招集
「風音サン!オ待タセシマシタ。不死川様ヘノオ手紙ト言伝確カニ届ケマシタ。那田蜘蛛山ノ鬼ハ冨岡様ト胡蝶様、多クノ剣士タチノ力デ討伐完了デス」
ちょうど剣士を隠へと引き渡したところで楓が実弥の元から帰ってきてくれた。
「お疲れ様です、楓ちゃん。そっか、皆さんたくさん頑張ってくれたもんね。よかった、無事に完了して……それで……あの、その鬼気迫る勢いで私の名前書かれてる封筒……もしかしなくても実弥さんから?」
風音の腕に止まっている楓の首にかけられているのは、穏やかな気持ちで書いていないと一目見ただけで分かる封筒が一通……
聞かなくても分かるが念の為の確認だ。
「ハイ……次ノ任務ニ行ク前ニ金魚ノ街ノ宿ニ立寄ル。風音モソコニ向カッテ、ソコデ手紙読ンデ待ットケトノコトデス」
お叱りが決定付けられてしまった。
かと言って違う宿や藤の花の家紋の家に退避しようものなら、もっとお叱りが厳しくなることが容易に想像できるので、しょんぼりしながらまずは手紙を受け取り鞄の中にしまった。
「怒られる……明日は柱合会議なのに、私のせいで実弥さんがご機嫌斜めのまま会議に出席することになっちゃう。はぁ……今度皆さんにごめんなさいしないと……」
楓を腕の中に抱えてとぼとぼ山を下ろうとした時、誰かの鎹鴉の声が山中に響き渡った。
何事かと風音と楓が顔を見合せた直後、その内容に風音は目を見開いた。
『額に傷のある炭治郎及び竹を咥えた鬼 禰豆子を拘束して本部へ連れ帰れ』
というものだったからだ。
禰豆子という鬼は風音も目にしたことがないので分からないが、額に傷のある炭治郎とは面識がある。
「竈門さんがどうして拘束なんか……実弥さんなら何か知ってるのかな?宿で会ったら……聞ける状態だったら聞こっか。とりあえず宿に向かおう。実弥さんより早く到着しとかないと」
「ソウデスネ…… 風音サン、オ疲レデショウカラ飛ビマスヨ?」
「ううん、このままがいい。楓ちゃんの暖かさが心地いいの。このままで……」
風音がこの山で何を見て何を行っていたのか……他の鎹鴉から聞いていた楓は、風音の心の傷が早く癒えますようにと祈りながら、腕の中に身を沈み込ませた。