第10章 犠牲と招集
「目、真っ赤だよ?大丈夫?」
泣き崩れてその場で蹲ることは簡単であっても、皆が賢明に戦いキズを作っているこの場でそんな事は有り得なく、風音自身の中でも許されない行為だった。
重い体を引き摺り歩きながらひとしきり泣いてしまい、現在人手が足りていない救護に徹して、他のことを考えないようにしている。
「ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ。さて、応急処置は終わりました。傷が膿んでもいけないので、これから隠の人たちと一緒に蝶屋敷へ向かってくださいね」
ニコリと笑みを向けて立ち上がり、近くに待機してくれている隠に歩み寄って手を握った。
「もうそろそろこの山の件はカタがつくと聞いてます。でも山には鬼だけでなく野生の生き物も多くいるので、麓に到着するまでどうかお気を付けて。ここを突っ切って行けば危険はありません。どうかこちらの剣士の方をよろしくお願いします」
先を見て安全な道を伝えては送り出しを幾度となく繰り返した。
キョトンとする隠に疑問を呈される前に頭を下げてその場を去るという行為も数え切れないほどに行なった。
今回もそうして踵を返すと、目元のぱっちりした可愛らしい隠が手を引いて引き止めてきた。
「柊木さん、ありがとう。貴女もお気を付けて……ずっと剣士の人たちの処置に駆けずり回ってくれてるでしょ?その……どうか気を病み過ぎないで」
救護に徹していても、手の施しようがない剣士はどんなに悲しくても見送らなければならない。
その度に涙を流し、手や隊服は自分のではない血で赤く染まっていった。
いくら広い山中だといっても風柱の継子の特徴である鮮やかな羽織を纏った剣士が医療器具を手に、涙を流しながら駆けずり回って処置を施していれば噂は広がる。
目の前の隠もそれを噂で聞き、こうして手を握り慮ってくれているのだろう。
「はい……もう大丈夫です。今は出来ることを精一杯することにします。あ、そうだ。これ、まだ試作品なんですけど鬼避けの……お守りです。念の為にどうぞ」
いつまでもグジグジしていては実弥に知られた時に呆れられるか叱られる。
そう思った風音は半ばお守り……を押し付けてようやくこの場を後にした。