第10章 犠牲と招集
比較的軽傷だった二人の剣士には少し待ってもらい、特に重症である青年剣士の処置を最優先に行った。
「生きて……諦めないで」
しかし鬼の糸に無理やり体を酷使された剣士の傷は想像以上に酷く、折れた骨が内臓に突き刺さって大量に血が吹き出しているので、この場で出来る処置ではどう頑張ってもどうにもならない。
救うことが出来ないのだ。
「もう……いいよ。俺より……他の奴らの手当を……」
いくら止血処置を施しても根本をどうにか出来ないと焼け石に水状態。
自分より他の者たちをと促すような優しい剣士は、こうしている間にも体温が下がり顔色が青白くなっていく。
「そんな事言わないで……皆さんも手当するけど、貴方が一番傷が酷いの。何か……誰か助けて。この人を助けたい!胡蝶さん……」
泣いて嘆いて懇願しても、誰もいないこの状況でしのぶはもちろん助けてくれる者は現れない。
死の淵に立たされている剣士を励ましてやりたいのに、出てくるのは笑顔ではなく涙ばかり。
「……本当に……いいんだ。でも……出来るなら手を……握っていて欲しい。頼めるか?」
小さくささやかな願いは風音の胸を締め付け涙を更に増やしたが、それが望みならばと怪我が酷くない方の手を取って強く握り締めた。
「もちろんです!ごめんなさい……力が足りなくて……私は……貴方に何も出来なかった」
ポロポロと止めどなく涙を流す少女に剣士は笑みを浮かべ、折れてズタズタになった激痛を発しているであろう腕を上げて頬を撫でた。
「あのままだと……鬼に殺されてた。でも君が来てくれたから……穏やかに逝ける。ありがとう、最後まで諦めないでくれて……願いを叶えてくれて」
最後の方はもはや吐息を漏らすほどの大きさだったのに、やけに風音の耳に明瞭に響き、胸を掻きむしりたくなる衝動に駆られた。
「死なないで……ヤダ……待って」
「後は……頼んだ」
ふと……剣士の手から力が抜けた。
それが何を意味するか……考えなくても一つしかない。
「うぅ……任され……ました。どうか安らかに……」
この後、全員の処置を済ませて隠へと引渡し……己の無力さに打ちひしがれた少女の泣き声が静かな山に響き渡った。