第10章 犠牲と招集
青年の小さくも大きな決意を知らぬまま、どうにか気を持ち直した風音は目の前の現実に眉をひそめた。
さっきの場所で吊るされていたのは繭だった。
しかし今度は木に吊るされているのは生身の剣士で、その剣士たちはどうやらその場にいる剣士二人に枝へと放り投げられているようである。
……一人は獣の被り物をしているのではっきりとは分からないが、とにかく二人が賢明に蜘蛛の糸を対処しているところだった。
「あと数秒……夙の呼吸 壱ノ型 業の風」
日輪刀を構え軸足で踏み切って横に薙ぎ、剣士たちに絡みついている蜘蛛の糸を全て切り裂いて首が捻られてしまう事態を回避させる。
火事場の馬鹿力とでも言うのか……枝に待避させられていた三人の剣士たちを日輪刀を捨て去って両脇と背中に抱えて着地……して地面に崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?!」
「大……丈夫、です。この方たちは私が手当てします」
走りよって肩に手を置いてくれた剣士にどうにか顔を向けると、自分より少し年下と思われる額に傷のある優しい顔付きの少年が目に映った。
「けど……君も額を擦りむいてる。先に君の手当をしないと」
顔付きだけでなく、本当に心の底から優しい少年だった。
心配げに下げられた眉、声音からでさえも優しさが滲み出ており思わず顔が綻んだ。
このまま少し話していたい気持ちになってしまうが、助け出した剣士たちはいずれも重症で予断を許さない状況なので、実弥に内緒で鞄の中に持参してきていた、血の研究の際にしのぶから譲り受けた処置を施すための器具を漁り出した。
「これくらいなんて事ないですよ。それよりもこの先にいる鬼をお願いします。大丈夫、貴方たちの素晴らしい連携で倒せますから。ね?」
「お前強いのか?!俺と……」
「伊之助、今はそれどころじゃない!よく分からないけど、鬼は任せてくれ!この人たちを頼んだ。俺は竈門炭治郎、こっちは嘴平伊之助。えっと……」
何となく名前を聞きたいのかな?と雰囲気で感じ取り、ふわりと微笑んで答える。
「私は柊木風音です。竈門さん、嘴平さん、また任務後にお会いしましょうね」
「あぁ!風音、また後で。行くぞ、伊之助!」
そこで優しい少年と獣の被り物を被った少年と別れ、風音は目の前の剣士たちの怪我の処置に取り掛かった。