第10章 犠牲と招集
「命あっての物種です、私も全力を尽くしますので風音ちゃんも不死川さんを悲しませることはしないように。ではこちらはお任せしますね」
「あ……はい!分かりました。胡蝶さん、お気を付けて」
ずっと微笑みかけてくれていたしのぶに笑みを返すと、大きく頷きさすがは柱と認めざるを得ない速さで山の中へとふわりと蝶のように軽やかに消えていった。
それを見送ると風音は今までのやり取りを茫然と見ていた剣士たちへとくるりと身を翻し、その内の一人の手を握って確実に安全な道を探り出す。
「柊木……君は未来が見えるのか?」
やんわりとであっても風音の伝えてくれることはいつも的を得ていた。
何度か任務を共にする度、どこに鬼がいるのか、先手を取るにはどこから攻めるのがいいのか、どうすれば無傷で鬼の間合いに入れるのか……など正確な情報はあげだしたら枚挙に遑がない。
しかしそれを伝える過程で幾度となく痛みを堪えるような表情になることがあったので、未来を見る力があったとしても無償で見ることは出来ないのかもしれないと感じていた。
その真偽はどうなのか……ジッと風音を見つめて答えを待っていると、困ったような笑顔を向けられた。
「また……次に会えた時にでも。さぁ、そこから真っ直ぐ下っていって、途中に大きな木があるからそれを目印に下ってもらえれば何にも襲われないよ。いつも気にかけてくれてありがとう、立花勇さん」
「あ……うん、ありがとう。俺の名前、知っててくれたんだ」
「今まで一緒に戦った人は全員覚えてるよ。ただ……呼んでいいのか分からなくて」
村から連れ出してもらってから関わりをもった異性は全員歳上の、しかも実弥のよく知る柱の人ばかりだった。
実弥の仲間だからこそ名前を呼べていたけれど、同じ鬼殺隊の剣士であっても同年代の異性に対しての距離の縮め方が分からなかったのだ。
自分の不器用な性格を心の中で嘆きながら、かつて山の中で助けた幼子と同じ名前を持つ青年の手を離した。
「私も向かいます。怪我してる人たちをよろしくお願いします」
名前を呼んだことが何だか急に恥ずかしくなった風音は顔を真っ赤にして踵を返し、しのぶとは逆の方向へと走り出した。
「……うん、今度は下の名前で呼ばせてみよう」
立花勇に変な決意をさせたことを知らないまま。