第10章 犠牲と招集
(実弥さんがいたら……お前が望んで首突っ込んだんだろうが、泣いてる暇あんなら動かねェかァ!って言われそう)
あれから吊るされていた繭を全て切り裂き中に閉じ込められている剣士たちを解放したのだが、助け出せたのは生成されて間もなかった繭に閉じ込められていた者たちと、運良く溶解の速度が遅かった者だけだった。
人の形がある剣士はまだいい方で、殆どが釦や日輪刀を形見として持ち帰ってやれるだけの者たちばかりである。
「柊木、もう泣かないでくれ。不死川さんが昨日言ってた通り、俺たちの力不足だったんだ。だから……」
「そんな事ないよ……罪なき人が殺されていい理由なんてないんだから」
泣いても喚いてもなくなってしまった者は生き返らないし、鬼が死ぬわけではない。
それならばここに来た自分のやるべき事をしなくては……と足を踏み出しかけた時、後ろからふわりと優しい手が肩に掛けられた。
「あらあら、本当に来てたのですね。不死川さんが少しご機嫌斜めのようでしたよ、風音ちゃん」
「胡蝶さん!お恥ずかしい姿をお見せてしまって……すみません。あはは……師範からのお叱りは帰ったらしっかり受けます」
やはり風音の起こした行動に師範である実弥はご立腹だったようだ。
しかしご立腹だとしてもここまで来たのだから今更引き返せない。
実弥のことは後で考えるとして、風音は指示を仰ぐべき柱であるしのぶに向き直った。
「胡蝶さん、私で力になれることがあるならば指示を下さい。救護でも鬼の討伐でも何でもします!勝手をしてここまで来たからには、何でも致します!」
涙を目に溜めた風音にしのぶはニコリと笑みを浮かべ、繭から救出され待機していた剣士たちへと視線を動かした。
「そうですね、ではこの方たちに安全な麓までの道を伝えた後、あちらの方角へ向かい癸の剣士の援護及び負傷者の処置をお願いします。どうするかは……分かりますね?」
つまり予知を使って剣士たちを麓まで導き、予知を使って援護、今まで独学で培ってきた薬の知識や怪我の処置術を使い、剣士たちを助けなさいということだろう。
「はい、かしこまりました。命に変えてもやり遂げてみせます」