第10章 犠牲と招集
実弥に白い目で見られながら事前に那田蜘蛛山の場所を調べていた甲斐あって、地図を片手に向かえば迷うことなく到着する事が出来た。
「……今更だけど私が首を突っ込んでも足手まといにならない……よね?足手まといだったら実弥さんに止められてただろうし」
今更な不安を吐露しつつ薄暗く薄気味悪い山へと足を踏み入れ、初めに驚いたのは地を這う蜘蛛の多さである。
蜘蛛は本来は害のある虫では無いので可能な限り避けて進んでいたのだが、どうもこの蜘蛛の様子が普通の蜘蛛と違うように思えた。
「避けても避けても糸吐いてくる……これが繭になるわけないだろうし、首を捻じる糸?」
実弥ほど索敵能力に長けているわけではないが、ある程度ならば人や鬼の気配を辿ることが出来るので、蜘蛛がいない木の枝に飛び乗って慎重に気配を探る。
(鬼の本体は遠いけど……人……?鬼殺隊の剣士の気配は近いかも。先にこの人たちを避難誘導しないと)
風音が見据える方角に鬼殺隊剣士の気配が数人分。
「よし、全集中の呼吸……」
全身に酸素を行き渡らせ風音にとってはお馴染みの力を使って枝から飛び降り、剣士たちの気配がする場所へと移動を開始して数秒後。
信じられない光景が風音の瞳に飛び込んできた。
「え、繭?!」
風音の予知が正しければ、あの繭の中で剣士たちが妙な液体で溶かされているはずだ。
まだ生成されたばかりの繭もあるようで、数人の無事だった剣士たちが懸命に木に吊るされているそれを切り付けている。
「一気に薙ぎ払います!伏せてください!風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風」
声に反応して剣士たちが伏せたのを確認すると、派生の技より安定して使える風の呼吸の技を遣い繭に放つ。
すると繭は目測通り端の方がスパリと切れ、中から液体と共に服が溶かされてしまった剣士がぼとりと落ちてきた。
「すみません、私が他の繭を切り終わるまでこの方たちの応急処置をお願いします!無事でいてくれて……ありがとう」
繭に捕まっていない剣士は皆、昨日風音がそれとなく対処法をやんわりと伝えた剣士たちだった。
「柊木……ううん、何でもない!助けに来てくれてありがとう!こっちは俺たちが対処するから、繭は任せたぞ!」
頷き返し全ての繭を切ったものの、救えたのはほんの数人だった。