第9章 糸と朧
「不死川さん、柊木大丈夫で……」
「心配すんなァ!いいかァ?!開けんじゃねェぞォ!もう寝ちまうからなァ!」
もう寝ちまうのに心配で様子を伺いに来た剣士への声が大きい。
例え寝そうな状態でも今の実弥の声で目を覚ましそうであるが、とりあえず心配するなと言われたので、剣士は引きつった返事を残して広間へと戻って行った。
襖を開けられなかったことに安堵の溜め息を一つ零して風音へと視線を戻すと、胸元から顔を出してジッと実弥を見つめていた。
「……ん、何だァ?」
「ううん、私が原因なんだけど、実弥さんが私生活で焦ってるの初めて見たから少し驚いただけ」
実弥はもじもじと指遊びをしながら気まずそうに小さな声で呟く風音の頭を乱暴にくしゃりと撫で、家の主が敷いてくれている布団へと風音の体をゆっくりと運んだ。
「この格好はさすがにまずいだろうが。ほら、アイツらには適当に言っといてやるから休んどけ」
いつ何時、風音を心配した剣士の誰かがこの部屋に入ってくるか分からないので、実弥は風音を布団の上に座らせた後に浴衣を着付け直してストンと腰を下ろした。
「私がはだけさせたって言えば大丈夫だと思うけど……あ、それより今日は眠くないの!最近は能力を使うのに慣れてきたのかな?初めの頃よりも眠気がなくなって。実弥さんと一緒に戻りたい、誰が明日の任務に行って被害に合うのか確認しなくちゃ」
「柱が一般剣士に浴衣ひん剥かれてたまっか……」
軽口はほどほどに、実弥は布団の上でグッと握り拳を作って元気なのだと誇示する風音を注意深く観察した。
先ほどまで体にあったであろう痛みの影響で汗を滲ませているものの、顔色は悪くなく震えも止まっている。
かと言って常人ならば気を失っていてもおかしくない激痛をともなっていた風音をあまり連れ歩くのも気が引けるのも本音であって……
「はァ……飯食って該当の剣士に声掛けたらすぐ部屋戻んぞ。明日の任務のことは俺が情報収集、その間にお前は体を休める。それでいいなァ?」
「うん!ありがとう、実弥さん。少しでも被害者減らさなきゃ!」
勇み足で部屋を出ていきそうな風音を抱え上げ、実弥は冷や汗をかきながら広間へと戻った。