第9章 糸と朧
結局剣士たちには鬼狩りの際についていた古傷が痛んだと無理やり納得させ、後は明日の任務に赴く剣士たちをそれとなく聞き出した。
ここにいる剣士のうち三人が明日の任務に招集されており、任務地は那田蜘蛛山といういかにも蜘蛛が潜んでいそうな山だと判明した。
「伝わっていればいいのだけど……明日の任務、心配だね」
「二十人は招集されてんだぞ?これで十二鬼月でもねぇ鬼に殺られんなら力量不足にも程があんだろ。この場にいる三人はお前の予知もそれとなく聞いてんだァ……お前は自分の任務の心配してろ」
風音には風音で別の単独任務が明日の夜に入っている。
それは実弥も同じで他の合同任務に気を散らしている暇はないのだ。
「そう……なんだけど。痛いのは出来るだけ避けてもらいたいでしょ?もちろん自分の任務はちゃんと終わらせるけど、やっぱり心配だなって」
現在の風音の階級は実弥の手を借りたとはいえ下弦の弐の鬼を倒したことによる功績で乙になった。
そうなるとやはりその階級に応じた鬼の討伐が割り当てられるわけであって、実弥の心労は募るばかりである。
それなのに本人は自分の任務に加え那田蜘蛛山での他の剣士たちの任務が気になるというのだから、実弥の心労は更に上乗せされる。
「人のことばっか心配する奴ほど危ねぇって何度言やァわかってくれんだよ。人の気も知らねぇで……そんな心配なら自分の任務を無傷で終わらせてから様子見に行きゃいいだろォ。……二人とも非番の夜は珍しいんだ、明日に備えて寝んぞ」
少し機嫌を悪くした実弥はフイと向こうを向いて布団に潜り込んでしまった。
その様子を苦笑いを浮かべて眺めた後、窓の外に映る朧に包まれた月を見て身震いする。
その何とも言えない恐怖を払拭するべく実弥が横になる布団の隣りに潜り込み、背中にキュッとしがみついた。
「何だァ?デカい虫でもいたのかよ?」
振り返り抱き寄せてくれた実弥の胸の中で首を左右に振り、何でもないと示す。
「ううん、何でもない。おやすみなさい、実弥さん」
「?あぁ」
風音には嫌な予感を、実弥には疑問を残してこの日は終わりを迎えた。