第9章 糸と朧
この短時間でどれほどの恐怖と果てしない痛みを味わったのだろうかと考えると、明日の大掛かりな任務も気になるが実弥は目の前で体をさすり首が無事であるかを涙を流しながら確認している風音の方が心配で仕方ない。
「後で任務は確認してやる!大丈夫だ、お前の体は溶けてねェし首も折れてねェ!何処が痛てぇ?!」
「全身……痛い。首が……後ろに捻られて……体もね、ゆっくり……皮膚から溶かされて……実弥さん、目……実弥さんのお顔見たい」
いつもなら頬に手を当てて自分の方を向かせていた。
しかし今は予知によって首を捻られるものを見て、首を動かすことに恐怖を抱いている風音にそれは出来なかった。
その代わりに肩を抱き寄せ自分に近付けると、大好きだと言ってくれていた口付けをふわりと落とした。
普段は暖かく心地よい唇も今は恐怖や痛みからか、可哀想なほどに冷たく震えている。
それでもしばらく続けていると暖かさは戻り、落ち着き震えがおさまってきた風音は唇を重ね合わせたまま実弥の存在を確かめるように首元に腕を回した。
そうして望むだけ、好きなだけ風音に身を委ねていると、風音は唇を離して実弥の胸元へと身をうずめていった。
「痛みは?もう落ち着いたかァ?」
「うん……あんな惨いの初めてで、動揺してなかなか感覚を切り離せなかった。でも私は……彼らの痛みを追体験しただけ。少し……もう少し落ち着いたらちゃんとお話する。だから……」
あと少しだけこのままいさせて
言葉にならなかった風音の言葉を実弥はしっかり汲み取り、恐怖が早くおさまるようにと祈りながら抱きしめ直した。
「焦んなァ、お前が満足するまでこうしててやる。まだ昼だ、このまま眠っちまっても構わねぇ。側にいてやるから」
「ありがとう。実弥さんがどんどん心配性になってくのは、間違いなく私が原因だね。もっとしっかりして安心して欲しいのに、心配させてばっかり……ごめんね」
どうしてこうも必死に生きる者ばかりが辛い思いを強いられるのか。
父親のことにどうにか折り合いをつけて前に進み始めたのに、能力以外は普通の少女となんら変わりない少女は痛みばかりを与えられている。