第9章 糸と朧
「で、派生の技はうまく出来そうなのかよ?まだ名前すら決めてねぇみたいだが」
賑やかな剣士たちに囲まれ昼餉を頂戴しつつ、師範として放っておけないのが風音の派生の技のこと。
風音の生家で父親を相手取った時、最後の最後で出していた技のことだ。
「技はまだ一つだけなんです。でも名前は決めましたよ!夙(つと)の呼吸にしようかなって。早朝とかそういった意味があるんですけど……壱ノ型が業の風というちょっと激しめの名前だから……合わないかな?」
茶碗を片手に業の風に思いを馳せる風音の頭を撫で首を左右に振った。
「合うも合わないも派生生んだお前が付けんなら気にする必要ねェだろ。派生の名前が決まったんなら、明日からお前に合った技編み出すの手伝ってやるよ。考えてるモン、完成しそうなモン全部教えろ」
さすがは柱である。
風の呼吸の派生と言えど自分と違う技を生み出そうとしている継子の力になってくれると言う。
一人悶々と日々悩んでいた風音にとっては何とも有難いお話しだ。
「はい!実は二つほど考えてもうすぐ完成しそうな技があるんです!是非とも……あ、ちょっと待って。久しぶりにいっぱい流れ込んで……ぅ、あ……溶ける……」
持っていた茶碗や箸が畳へと転がり落ち、楽しげに騒いでいた剣士たちも一瞬にして口を閉ざした。
しかし剣士たちは風音の能力を知らされていないので、いきなり苦しみ出した風音に悲壮な表情をして駆け寄るしか出来ない。
「風音?!お前らはここで飯食って待ってろ。心配すんな、すぐ落ち着くからよォ」
実弥は風音を抱え上げ、心配して駆け寄って来た剣士たちの合間を縫って広間を出て行き与えてもらった部屋へと戻る。
そして風音を脚の上に座らせてやり背中をさすった。
「落ち着け……今は俺しか近くにいねぇ」
「う……ん。大……丈夫、もう落ち着いた。ねぇ、実弥さん……明日、大掛かりな任務……入ってない?私……変な繭の中に閉じ込められて、体をゆっくり溶かされる未来見たの……何人も何人も……それで命を落としちゃう。あとは首を……折られて」