第9章 糸と朧
あれから数週間経過し、風音の怪我は快方に向かい今では元気に任務へと旅立つほどにまで回復した。
ここ最近は他の剣士との合同任務も増え、たまに勝手に流れ込んでくる剣士の未来を見てはさり気なく怪我などの回避方法をこっそり伝える日々を送っている。
「お嬢さん、俺、そこの家のモンなんだけど、一緒に行かない?飯とかも用意してんだ」
「藤の花の家紋の家の方ですか?でも師範と待ち合わせしているので、師範が来られたらお邪魔させていただきますね」
人の良さそうな男に手首を握られ家へと促されるが、実弥からは
『俺が来るまで待ってろ。藤の花の家紋の家に入って待つのは構わねぇが、外で知らない男に声掛けられても着いてくんじゃねぇぞ。分かったなァ?』
と日々口を酸っぱくして言われ続けているので、目の前の鬼殺隊でもない男について行くことは出来ないのだ。
「そこの家に用があるんだろ?家の中で待てばいいじゃん。ほら、行こ!」
「ありがとうございます。でも私は実弥さんを待ちたい……」
「柊木ぃーーー!ソイツは駄目ーー!」
物凄い大きな声と複数人が走り寄ってくる足音が聞こえそちらに目を向けると同時に、男に掴まれていた手と反対の手を掴まれ一目散に藤の花の家紋の家へと連行されていった。
「皆さん?!どうしたの?あの人、ここの家の人なんでしょ?放ってきたら……」
と、せっかく安全な家の中に入ったのに玄関を出て行こうとするものだから、数々の任務で風音と仲良くなった剣士たちが必死に引き止める。
「駄目だって!アイツ、鬼殺隊がここに来るの知ってるだけの人だよ!女剣士に声掛けてはどっかに引っ張って行こうとするんだ!何されるか分かんないから、今はここから出ない方がいいよ」
「そう……なの?よく分からないけど、助けてくれてありがとう!もう少しで師範も到着するから、よければ一緒にご飯を……」
『なァ!今ウチのモンに声掛けてたよなァ?!どこ案内するつもりだったァ?そこに俺連れてけや、なァ!』
実弥さんご到着。
どうやら風音との遣り取りを遠くから見ていたようで、不埒な男を懲らしめているところなのだろう。