第9章 糸と朧
「ん……ここは?……実弥さんどこ?!」
「目の前にいんだろうが」
……本当に目の前にいた。
何だったら目と鼻の先で一緒の布団に寝転がっていたようで、風音の突然の覚醒と動揺に実弥の方が動揺している。
「お前、久しぶりに三日も寝たきりだったからなァ。柱のヤツら、心配して見舞い来てたぞ。見てみろ、アレ」
指さしたものが見えるように風音を自分の体の上に乗せてやると、少し恥ずかしそうに身をよじってから部屋の隅っこへと視線を移し……固まった。
「お菓子と……お米?どうしてあんなにもたくさん?」
「まぁ、アレだ。父ちゃんの件、ケリつけたろ?それをどっかから聞きつけたアイツらが、お前に元気になってほしいって持ってきた。んで、俺からはコレだ。父ちゃんの隊服ん中から出てきた」
実弥が布団の外に手を出して慎重に手に取った物、それは一枚の写真だった。
「これって……家族で昔に撮ってもらった……」
「真ん中の泣きべそかいてるちっこいのがお前だろ?んでこっちの綺麗な人が風音の母ちゃんかァ。お前、父ちゃんに似てると思ったが、母ちゃんにそっくりじゃねェか」
もう記憶の中でしか両親と会えないと思っていた風音にとって、実弥が見つけて持って帰ってきてくれた写真は何より嬉しい物なのに涙が溢れてきてしまった。
「うん……あの村でも……嫌味だと思うけど、お母さんにそっくりって言われてたの。フフッ、この時はねカメラが怖いって泣いちゃって……最後になるなら笑っとけばよかった」
「お前は泣きべそかいてっけど、父ちゃんと母ちゃんは満面の笑みだ。俺には……普通の幸せな家庭の……いい写真と……何やってんだァ?」
二人で写真を見ていたはずなのに、話の途中で何か胸元がモゾモゾすると思ってそちらを見ると、何故か風音が実弥の浴衣をはだけさせ暖かさを求める猫のように肌に直接ピタリと顔や手、体を密着させていた。
「いつも隊服はだけさせてるからこっちの方が……すみません、冗談です。あの任務に行く前、私の肌に直接触れたいって言ってくれたでしょ?こうすれば触れられるかなって思って」