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涼風の残響【鬼滅の刃】

第9章 糸と朧


「初めからこうすれば良かったんだ!そうすれば実弥さんが痛い思いしなくてすんだんだ!……お父さんだったとしても、実弥さんを傷付ける奴は許さないから!」

実弥の稀血にあてられ、床に張りつけられて身動きの取れない鬼の口元に自らの腕を持っていき、床に散乱している木片を突き刺した。

「体内に直接入れるとどうなるか……」

血が鬼の口に滴り落ちる寸前、血塗れの腕は再び掴まれて上へと上げられ……手早く止血処置を施されてしまった。

「やめとけっつってんだろォ!何やってんだ!もう頸斬っちまえ!らしくねぇこと……してくれんなァ」

「だって!……分かりました」

実弥の手から解放されようと抗っていた腕の力が弱まるのを確認すると、実弥は腕を解放してやって一歩後ろへ下がる。
いくら今の風音にとって硬い頸であったとしても、酩酊状態に陥っている鬼の頸ならば斬れるだろうと判断した結果だ。

「お父さん……さようなら。ーーの呼吸 壱ノ型 業の風」

見たことのない構え、聞いた事のない技名に実弥が声を上げそうになった時には、既に風音の手によって下弦の弐…… 風音の父親の頭は床に転がっていた。

不自然なほどに穏やかな表情で……

「風音……嫌な役を……させて悪かったね。彼は……君の恋人……かな?」

その頭から発せられた言葉に風音の体がピクリと震えた。

「お父さん……?」

「あぁ……お母さんは死んでしまってたんだね……一人にさせて……」

憎いはずだった。
多くの一般の人を手にかけ、仲間も多く葬ってきた目の前の鬼が許せなかったはずなのに、記憶の中にある優しい父親と同じ表情をしている鬼の頭を無意識に胸へとかき抱いていた。

「実弥さんはね!風柱で私の師範で誰より大切な人なの!お母さんは死んじゃったけど……それを知った時は悲しくて仕方なかったけど、実弥さんが側にいてくれたんだよ!誰よりも優しくて……すごく大切にしてくれる人だよ!柱の人も皆優しくて……もう一人ぼっちじゃないの。だから……」

風音の涙が落ちた場所から塵と化していく。
もう後僅かな時間の中で娘の腕に抱かれた父は言葉をつむいだ。
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