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涼風の残響【鬼滅の刃】

第9章 糸と朧


放たれた四つの風の刃は確実に鬼の体を切り裂き深い傷を刻んだ。

頸を残して。

「どうして避けるの?鬼になんてなりたくなかった……そう言ってたよね?それなのに鬼のままでいることを望むの?」

足を吹き飛ばされ再生が追いついていない鬼は、日輪刀を強く握り締めながらにじり寄ってくる風音の動きに合わせ尻もちを着いたまま後退していく。

その姿が風音の怒りや悲しみを増長させた。

「私が貴方のことをお父さんって呼んだから……父親だって言っただけだよね?名前も実弥さんが呼んだのを復唱しただけ……ねぇ、そうでしょ?」

頬を伝う涙が悲しみからなのか怒りからなのか、もはや本人も分からなくなっていた。
ただ一つだけ、分かったことはある。

「実弥さんも……辛かったんだろうな。大好きなお母さんと戦った時も……戦い終わった時も」

「な、何を……」

ぐちゃぐちゃになった胸の内は鬼の言葉で区切りをつけ、刃を振るって再び足を吹き飛ばし刀が握られている腕も吹き飛ばした。

「貴方は知らなくていいことだよ。それより早く再生してよ、今まで……貴方が殺してきた人の痛みを少しでも多く体に刻むから。元鬼殺隊の剣士でありながら……多くの人を殺した罪、貴方の娘である私が身をもって……」

今度は反対の腕をと振り上げた腕は暖かな手で止められた。

「もういい、やめとけ。そんなことは俺がしてやる。柱でも何でもねェお前がそんなことする必要ねぇだろうが」

「離して……下さい。こうでもしないと……私がしないと殺されてしまった人は納得しないでしょう?父親だからって楽に……死なせるなんて」

意思とは関係なく勝手に瞳からボロボロ零れてくる涙で視界が滲む中でも、イヤに鮮明な赤がパッと散った。

風音に痛みはない。
かと言って目の前の鬼に風音も実弥も日輪刀を振っていないので、赤を散らせた者など一人しか該当しない。

「実弥さん!」

「あぁ?……あぁ、腕掠っただけだァ。んなことより……おい!」

落ち着けと言葉を続けようとしたが、それは打撃音と激しい破壊音に遮られた。

風音が懇親の力で鬼を蹴り飛ばした音。

実弥が掴んでいた腕はいつの間にか遠くにあり、風音は日輪刀を逆手に持ちもんどりうって床をのたうち回る鬼の胸元に深くくい込ませていた。
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