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涼風の残響【鬼滅の刃】

第9章 糸と朧


早口で言い終えると実弥の返事を聞く前に再び鬼へと迫り、今度は手首を掴まれる前に腕に刃を滑らせた。

その血を見た鬼の表情は悲壮に満ちており……父親が娘の怪我を悲しんでいるかのように見えた。

「そんな顔しないで!」

振りかぶる腕が止まりそうだった。
この血を鬼へと被せれば最低でも数分間はもがき苦しむと分かっているから。
今の鬼は記憶の中にある優しい父親そのものなので、そんな姿を見たくない……と思ったが、実弥と今し方約束を交わしたのだ。

二度も約束を反故にすることなどあってはならない。

「ごめんなさい!」

どうにか決意を固めた風音は腕を上から下へと振りかぶり、鬼を自らの血で染め上げた。

「ぐっ……毒……か?ゲホッ!」

「私の血肉は鬼にとって今や猛毒なんだって。お父さんだった貴方にこんな血は使いたくなかったけど、今の私の力量では貴方を倒せない。柱の人みたいに……実弥さんみたいに私が強かったら苦しませる……ことなんて……え?」

喉元を押さえてもがき苦しんでいたのに、その苦しんでいる時間はあまりにも短かった。
まだ一分も経過していないのに、既にしっかりと立ち上がり刀を構え出したのだ。

「猛毒であっても……ゲホッ、それに対して免疫があれば中和も」

早いと言いたかったのだろうが、その言葉を発する前に風音の刃が目前まで迫り寄ってきていたので続ける所ではなくなった。

「それでも!まだ完全に回復してない!中和される前に貴方の頸を斬ります!」

「風音、待ってくれ!お父さんだ!忘れてしまったのか?俺は君の父親なんだ!」

「知ってるよ!そんなこと知ってる!私は貴方の娘だけど、鬼殺隊の柱である不死川実弥さんの継子です!父親であっても、人に害を成す鬼はこの手で滅します!」

いきなり饒舌になった目の前の鬼に心を許してはならない。
今まで散々鬼と戦ってきて風音が学んだことだ。

「鬼は嘘を平気でつきます!今の……貴方の言葉も私を油断させるための演技かもしれない!……もうやめて!お父さんの声で私の名前を呼ばないで!風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風!」
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