第9章 糸と朧
風音の言った通り屋敷と言うだけあって広さはそれなりにあるように見えた。
かつては立派だったと思わせる大きな庭もある。
「懐かしい……はぁ、こっちが玄関です。端から端まで捜索します」
深呼吸を零して朽ち果てた引き戸に手をあてて戸を開けようとするが、長年手入れがされていなかったためかビクともしない。
「……風の呼吸 壱ノ型 塵旋風ーー」
「おいっ!あぁ……出しちまってるし。仮にも生家だろうが」
実弥の制止も虚しく風音は派手に技で戸のみならず玄関まで破壊してしまった。
本人はその事を全く意に介しておらず、瓦礫と化した戸だったものを踏み締めて屋敷の中へ入っていく。
その後ろ姿からは普段の任務ですら感じ取れないほどの張り詰めた雰囲気が感じ取れるので、実弥はそれ以上何も言わず日輪刀を鞘から抜き出して風音の後に続いた。
「お父さん、いないんでしょうか?派手な音を立てれば姿を現してくれると思ったんだけど……出てきませんね」
「……鬼の気配はする。俺たちが来たから警戒して身を潜めてるだけかもしんねぇ、警戒だけは怠んなよ」
外気は暑くないはずなのに前を歩く風音の首筋には汗が流れている。
実弥が言わずとも警戒を解いていないのだろう。
その状態のまま部屋を一つ一つ確認していくも、いつまで経っても鬼は見つからず……とうとうあと一部屋となってしまった。
「寝室……実弥さん、ここに必ずいます!」
「そうだろうよ、他の部屋に居なかったんだからなぁ。用心して……」
「風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風!」
興奮状態に陥っているのだろうか。
玄関から始まり寝室として機能していた部屋すら破壊して中へと飛び込んでいってしまった。
「……力み過ぎてヘマすんなよ!」
そういった時には既に風音は父親である下弦の弐と交戦しており、部屋内は金属がぶつかり合う音で満たされていた。
「お父さん、私はお父さんの頸を斬りに来ました!もういいから……もうこれ以上苦しまないで!」