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涼風の残響【鬼滅の刃】

第9章 糸と朧


「本当は私一人で向かいたかったですが……間に合いませんでしたね。風柱様、音柱様、力及ばない私にどうかお力添えを願えますでしょうか?下弦の鬼の頸は……必ず私が斬り落とします。必ず……落とすとお約束します」

実弥でさえ風音のこんな姿を見たことはなかった。
そして過去でも現在でも見たいなど思わない姿だった。

正座をして深くこうべを垂れ、手は三つ指をついて床へと添えられている。

「どこでそんな格好覚えやがった?早く顔上げねぇと怒鳴り散らすぞ、風音。ふざけんなよ」

「ブフッ……あ、悪ぃ」

何故か天元が吹き出したが、今は実弥の言葉に返答しなくてはとそちらに意識を集中させた。

「ふざけていません。私の父が鬼殺隊に大きな爪痕を残していると聞かされた時から、こうするべきだと考えていました。これは私なりのケジメです」

継子でもなく恋人でもなく、今は一剣士として見てくれと言っているのだろう。
それは実弥も十分理解しているが、自分から距離を取り……何より自分を同行者としてすぐに選ばなかったことに苛立った。
これが柱と一般剣士との本来の姿であったとしてもだ。

「宇髄、俺が付き添う。悪ぃけど外してくんねぇか?」

「それは構わねぇけど、お前独占欲強いなぁ!まぁ嬢ちゃん、待っててやるから絶対帰って来い。帰ったら飯、奢ってやるからな!気張って行ってこい!」

「はい、ありがとうございます」

風音の返事に満足気に頷くと、天元はポンと実弥の肩を叩いて屋敷から姿を消した。

「付き添うって言ってんだ。いい加減顔上げろ、聞こえねぇのか?」

いつまでも顔をあげない風音に実弥は苛立ちを募らせ、顔はいつの間にやら般若と化していた。

「き、聞こえています。……すみません、師範の顔を見るのが怖くて顔を上げたくありません」

「……いい度胸してんじゃねぇか。よくもまぁ本人を前にして顔が怖いなんて言えたもんだなァ!」

ひょいと
実弥は固まり続ける風音を片腕で軽々と荷物のように抱え上げ、縁側から居間を通り抜け廊下を歩く。

「師範……実弥さん。どこへ」

「うっせぇ、黙ってろ」

(怒ってる!柱と剣士の関係性ってこんな感じじゃなかったの?)

やはり風音は今まで見聞きした柱と剣士の距離感を参考にしたようで、ふざけていたわけではなかった。
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