第8章 力と忌み血
今回や今までの任務でも最終選別でも、生きたいと願っていた人を無情に殺してしまった鬼は嫌悪の対象だ。
しかしどうしても心の底から実弥のように憎むことが出来ない自分がいた。
父親のように望まず鬼にされてしまった者、いいように騙されて鬼となってしまった者。
その者たちが胸をよぎる度、祈りたくなってしまう。
来世では幸せな人生を過ごせますようにと。
「私が……鬼を倒した後に手を合わせる姿、見ていて気持ちのいいものじゃなかったよね。これから……」
「正直祈ってやる価値なんかねェって思ってる。けど、父ちゃんのこと抱えるお前の考えてやってることなら止める気もねェ。まァ、お前とこんな関係なってからだったら、そもそも鬼殺隊に入れてねェから祈ることも出来ないし……入るっつってたら放り出してた」
鬼殺隊に入る前から常中を使えるからと鍛え出したのは自分なので、放り出したくても今から放り出そうものなら爽籟に何を言われるか分かったものでは無い。
それに加え万が一鬼殺隊を除隊させ戦う術を持っていない風音が鬼に襲われ喰われれば、鬼殺隊存亡の危機となってしまう。
鬼殺隊の柱としてそれは望むことではない。
そんなことを心の中で考えていると、ようやく風音が胸元から顔を上げ涙が滲んだ瞳で実弥を見つめ出した。
「放り出される前に弟子になってて良かったと心から思います。師範一人を危険な目に合わせて、その背中で守られ私一人が穏やかに過ごすなんて絶対嫌ですから。……あんまり踏み込みたくないけど、弟さん……玄弥さんも私と同じ気持ちな気がするな。これ以上は言わないけど、それだけは心に留めていてほしい」
「お前ら似てんのかもなァ。そうやって人のことばっかり考える奴ほど鬼殺隊で命を落としやすいんだ。たまには自分本位に動けよ、今回の任務でもお前は被害者のことばっかだったろ」
血を被せ庇ったことを言っているのだろう。
そう言う実弥こそ人のことばっかり考えている……なんて言おうものなら、今の穏やかな表情から般若の表情へと瞬時に変化してしまうと知っているので、風音は心の奥底に言いかけた言葉をしまい込んだ。