第8章 力と忌み血
「私は十分自分本位で動いてるよ。実弥さんはやめとけって言ってくれたのに、自分の血を鬼狩りに使おうとしてる。鬼にとっての毒の要素がまだまだ強くなるかもしれないから、一ヶ月に数回は研究に使いたい」
数日前、しのぶから研究の準備が整ったのでいつ来てもらっても大丈夫と連絡が入ったのだ。
その時の実弥の痛みを堪えるような表情は今でも風音の脳内に鮮明に焼き付けられ、消える気配は一切ない。
今の表情もそれに近しい。
「そうかよ……いいかァ?絶対一人で行くんじゃねェぞ。胡蝶のことだ、無理な研究はしねぇと思うが血ィ抜くってことは、体に本来必要なモン抜き取るってことだ。行き帰りは俺が付き添う……約束出来んなァ?」
悲しい表情から凄む表情へ。
鬼殺隊に関わる事に関しては基本的に厳しい顔をしている事が多いものの、こうして二人で過ごしている時は様々な表情を見せてくれる。
それが風音にとって何とも嬉しく、キュッとしがみついて暖かな体に頬を擦り寄せた。
「実弥さんは私の癒しです。たまに見せてくれる優しい笑顔も、こうして心配してくれて凄む顔も大好き。フフッ、約束する。絶対に一人で行かない」
凄む顔も好きなど言う人間がいるのか……半ば脅すつもりで凄んだ実弥は肩透かしをくらった気分になってしまう。
「お前の琴線が不明すぎて俺の頭が混乱するわ。でもまァ……怖がらねェで懐いて、こうやって甘える姿見てっと可愛いって思っちまうんだから、俺も中々重症だと最近自分で思う」
照れを一切見せず言われた風音は慣れずカチッと体を固めて顔を真っ赤に染めた。
顔を見られていないのがせめてもの救いだが、今の風音の心境を見逃すほど実弥は鈍感ではない。
「やめろよ……言っちまった俺のが恥ずかしくなんだろうがァ!クソ、おら、もう寝るぞ!明日から稽古量倍にしてやる」
「え?!なんで?!……ま、いっか!実弥さんとなら何してても楽しいし。じゃあ実弥さん、おやすみなさい」
「いいのかよ……はァ、おやすみ」
風音は数秒後、実弥は数時間後に眠りについたらしい。