第8章 力と忌み血
任務を無事に完遂させた三人は隠と言われる後処理部隊に女性を任せ、それぞれの屋敷へと帰った。
「帰って来れた!実弥さん、帰ってこられたね!私だけ傷だらけだけど……よかった」
屋敷に到着して風呂に入り寝室へと足を踏み入れた途端張り詰めていた気が解けたのだろう…… 風音は布団の上にペタンと座り込みポロポロと涙を零した。
「実弥さん、すみません……結局トドメを差せなかった。実弥さんと伊黒さんが来てくれてなかったら、私は死ぬどころか……鬼の子を……」
何をどうすれば子が出来るのか考えたこともなかったし、今ももちろん分からないまま。
それでも鬼に押し倒され体を拘束された時は恐怖で身が竦んだ。
思い出し身体を震わせ涙を流す風音の姿に実弥の胸が軋み、床に膝を付けて傷だらけの体を抱き寄せた。
「お前の階級で下弦の壱にあんだけ手傷を負わせりゃ上等だっつったろうがァ。あんな塵の言ったことなんて忘れちまえ。塵の言葉に一々反応してたらやってけねぇからなァ。風音、顔を上げろ」
鬼と対峙していた時の険しさが幻だったのではと思えるほどに実弥の今の雰囲気も声も優しく、風音は顔を上げて笑顔を向けてくれている実弥を涙で濡れた瞳で見つめる。
「近くにいたのに守ってやれなくて悪かった。俺たちが到着するまでよく耐えたなァ、お前が消えちまってからずっと……見つけるまで生きた心地しなかった。よく頑張ったなァ」
ふわふわと優しい手つきで頬をつままれ、まだ涙は止まらないもののぐちゃぐちゃになっていた胸の内は随分と快方に向かった。
「楓ちゃんがそれこそ死ぬ気で着いてきてくれてたから。いなかったら……色々危なかったと思う。実弥さん。もっともっと強くギュッてしてほしい。お願い」
「……小せぇ願いだなァ。そんなん願わなくてもいつでもしてやる。だからもう泣くなァ。風音の泣き顔は堪えんだ」
風音の小さな小さな願いは実弥によって即座に叶えられ、風音のみならず実弥にとっても褒美のようになった。