第8章 力と忌み血
実弥が怒り狂っているなど露ほどにも思っていない風音は、血の不快な匂いに顔を歪める鬼へ嫌悪感を露わにしながら日輪刀を振るい続ける。
「風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風」
廊下の床板を踏み締め蹴り上げてふわりと宙を舞う。
宙で体を回したことによりキュロットが捲れ上がることなんて何のその、露出してしまった太腿に傷を付けられようと構うことなく鬼を見据え続け落下する速度そのままに頸へと刃を届かせた。
「くっ……かったい!」
薄皮一枚。
たったそれだけしか通用しなかった。
「仲間も助けてくれない。残念だったなぁ!いくら攻撃を躱せても弱けりゃ俺を地獄に落とせないぞ!」
「今まであんたに命を奪われた人の無念は私が晴らす!風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風!」
幾つもの斬撃を放ち鬼が怯んだ隙に間合いを詰め、ふわりと不思議な風を刃に纏わせ鬼の頸目掛けて振り下ろすと、今度は薄皮一枚どころか頸の半分まで刃が進んだ。
何が起こったのかずっと様子を見ていた実弥と小芭内はもちろん、頸を斬られている鬼も風音本人も分からずそれぞれ時間が止まる。
「今の……何?感覚……今の感覚でもう一度……?!いない!後ろ?!」
背後に気配を感じて振り返ると、そこには既に鬼の姿は確認出来ず、『殺』と染め入れられた白い羽織がはためいていた。
「ここまで出来りゃあ上等だァ。風音は下がって後で俺にして欲しいこと考えとけェ!風の呼吸ーー」
一瞬だった。
実弥が技を振るい頸に刃が届くと、何の抵抗もなくストンと頸が斬れ頭が床に転がった。
「おい、塵屑野郎。てめぇアイツに子を産めっつったんだってなァ。とっとと消えてくれや、胸糞悪ぃんだよ。塵が」
最期に聞いた言葉は辛辣なものだった。
不条理に女性の命を奪い続けた鬼は、どの呼吸よりも痛みを伴うと言われている風の呼吸で頸を斬られ、痛みを永遠と感じながら最期を迎えた。
「はァ……足りねぇ。もっと切り刻んでやりゃあ良かった。……ここ出るぞ。息するだけで胸糞悪ィからなァ」
何にそんなに怒っているのか分からないまま風音は先を歩く実弥の後に続き、実弥の怒りに完全に同意している小芭内もその後に続いた。