第8章 力と忌み血
「分かりました。では二太刀入れたら目一杯抱き締めて甘えさせて下さいね。……前方三時の方向、五秒後です!私が先に出ます」
気の抜ける言葉を大真面目な表情で言ってのけた少女は鬼が出現する場所を予知し、日輪刀を構えて前へと躍り出し爪が顔をかすめる前に腹へと斬撃をみまった。
「一太刀目!師範、お稽古は今まで通りです!あと一太刀!」
……力量的に頸を斬ることは叶わないだろうが、このままだと確実にもう一太刀くらいはくらわせられるだろう。
「不死川、あと一太刀と言わず柊木はいい所まで追い詰めるぞ?鬼が俺たちを警戒して注意散漫になってるとは言え、お前への柊木の想いは相当だな」
「ハハッ!いいじゃねぇか!それで糞鬼を追い詰められんなら男冥利に尽きんだろォ!アイツが俺たちの動きに合わせ……」
「二太刀目!次は頸を狙います」
これにて風音は実弥に甘えさせてもらえることが決定した。
それでも退く気は皆無のようなので、実弥は踏み締めた足の力を抜き風音の動きに注視する。
「伊黒、アイツ一人でどこまでやれんのか見させてくれ。ケツは俺が拭く」
目の前で多くのかすり傷をつくりながら懸命に戦っている風音を瞳に映し、小芭内は警戒を解かぬまま日輪刀を下ろした。
「分かった。俺も柊木がどれほど成長したのか見てみたいからな」
見た目にそぐわず好戦的な風音の様子は二人の柱から見守られることとなった。
(師範も伊黒さんも攻撃を仕掛けない?!……こうなったら二人が攻撃に入ってくれていた未来を見て対処するしかないか……)
まさか見守られるなどと思ってもみなかった風音は僅かに動揺した後、気を落ち着け冷静に無限にある未来から鬼の動きを元に一つを掴み取る。
「グッ……お前弱いくせに何故俺の攻撃を避けられる?しかも血の匂い……不快だなぁ!」
「あんたが手の内を明かさないのに私が明かす訳ないでしょ?……私に子供産めと言ったくせに匂いが不快だなんて……失礼極まりない!」
激しい攻防を繰り返しながらの鬼との会話は二人にもちろん丸聞こえである。
……小芭内が恐る恐る隣りを確認すると、やはり目を血走らせ額から頬にかけて血管を浮き上がらせた実弥の姿があった。