第8章 力と忌み血
持てる力全てを出し懸命に出口まで最高速度でやってきた楓は天井を見上げて息を大きく吸い込んだ。
「不死川サマ!ココデス!コノ鉄ノ扉ヲ開ケテクダサイ!奥ニ風音サンガイマス!助ケテ!」
悲痛な声を鉄の扉にぶつけると、風音の言った通り軋んだ音をたてながら勢いよく開き間髪入れずに実弥と小芭内が飛び込んできた。
「楓、よくやったなァ。アイツと鬼は何処だ?」
「ココカラ一番離レタ最奥ノ部屋デス!鬼ハ下弦ノ壱、オ願イシマス!助ケテ!」
羽を動かしながら涙をポロポロ流す楓の頭を撫でてやると、実弥は言われた場所へ向かうために廊下に足を踏み出す。
そこへ全身血に塗れた女性が姿を現したので思わず警戒し柄に手を持っていったが、瞳が人間のものだったので抜刀せずに何も言葉を発することなく廊下を踏み締め駆け出した。
小芭内も後に続きたい気持ちは強いものの、目の前にいる血塗れの女性を放っていくことが出来ず出口の下へと誘導した。
「君が鬼に攫われていた人か?その血は……」
「鬼……?えっとこの血は私のじゃなくて助けてくれた女の子の血なんです。私は大丈夫です、あの子を助けてください!私を逃がすために化け物と……」
(そういう事か……不死川はこの血が柊木のものだと分かって……)
人を救うために下弦の壱と対峙し血を流した少女を助けなくてはと、実弥はこの廊下を駆けて行ったのだ。
「心配ない。君はこの鎹鴉と共に外で待機していてくれ。その血を被っているなら鬼に襲われることもないからな。楓、この人を任せた」
「ハイ、オ気ヲツケテ……」
楓と女性に見送られ、小芭内も地下の奥へと駆けて行った。
(クソがァ!また下弦の壱だと?!…… 風音、無事でいてくれよ)
「何でも思い通りになると思わないで。鬼でも悶絶するか試させてもらうから!」
その声を聞き無事だと安堵したのも束の間。
目の前に映し出された身の毛もよだつ光景に実弥の全身の血液が沸騰したかのように熱くなった。
好いた少女が鬼に押し倒され拘束されている姿など、怒りを頂点に達せさせるには十分なものであった。
「風音ーー!そのまま動くなァ!」
風音は声に反応して蹴り上げた足をそのままに固まっていた。