第8章 力と忌み血
飛び散った血は鬼の体や顔に付着し、予知で見た通り床に倒れ込んでもがき苦しんでいる。
しかし目の前の鬼はどんなに胸糞悪くなるような鬼でも、十二鬼月の下弦の壱だ。
今の風音の血では少しの間、時間稼ぎが出来る程度しか効果はない。
「急がなきゃ。……ふぅ、扉から離れてください!五秒後に吹き飛ばしますので!」
『え?!え、はい!』
中から声が聞こえ足音が奥へと遠ざかり静寂が訪れる。
「風の呼吸 陸ノ型 黒風烟嵐」
鍵など知ったことか。
木の扉など技で吹き飛ばせば鍵が掛かっていようが関係ない。
「怪我はないですね。時間がありません、気持ち悪いかもしれないけど何も聞かず合図を出せばここから対角線上にある場所に向かって。ごめんね!」
突然扉を破壊して部屋に入ってきた血塗れの少女に、中に閉じ込められていた女性は肩をびくつかせるも、ニコリと優しい笑みを浮かべてくれていたので安心して歩み寄る……が一気にまくし立てられ呆然。
そんな女性へと一言詫びを入れ、再び腕を切り裂き女性へと振りかける。
「私の血はあの鬼にとって忌むべきものです。ないよりはマシだと思うので……いいですね?ここから対角線上の場所ですよ?……走って!」
何が何だか分からない。
しかし化け物に閉じ込められた部屋から解放してくれた少女は間違いなく自分にとって救いなので、言われた通り合図を出されたと同時に廊下を走る。
「外で待ってます!必ず!」
「はい!後でお会いしましょう!」
女性の足音が遠くなったことを確認した瞬間、やはり予知通りのことが起こってしまった。
鬼が何かしらの方法で血の毒を中和して体勢を立て直し、出血過多で意識の朦朧とした風音の体を床に押し倒し体の全て使って拘束してきているのだ。
「後で会えたらいいなぁ。あぁ、外にいるなら連れ帰って再会させてやる。先にお前を持て成してやってからだがなぁ」
「何でも思い通りになると思わないで。鬼でも悶絶するか試させてもらうから!」
鬼に男と同じ急所が存在するのか分からない。
それでも生き延びて実弥や小芭内、先ほど救助した女性と再び会うために足を振り上げた。
「風音ーー!そのまま動くなァ!」
急所を蹴り上げたその時、誰のものよりも耳にしたかった声が聞こえた。