第8章 力と忌み血
実弥と小芭内が屋敷を全て吹き飛ばすより前、風音は楓を肩に乗せて楓の先を鬼に気付かれないように垣間見ていた。
もちろん楓もその事を望み理解しているので、ジッと動かず風音から出される指示を待っているところだ。
(窓は一切無し……となるとここは地下にある部屋の一室。楓ちゃん、こうなることを予測して未来でこの気持ち悪い場所を隈無く飛んでくれてる。出口はここから南西の方角だけど……先に北東かぁ。そりゃ出口から1番遠いところに閉じ込めるよね)
自分の子を産ませたいからか鬼は風音を牽制するためだけの最低限の攻撃のみを繰り出し、じりじりと風音との距離を詰めてきている状態である。
自分も楓も何がなんでも捕まるわけにはいかないので、鬼に聞こえないようにそっと耳打ちした。
「ここから北西に向かって飛んで南西にある出口に回り込んで。天井に鉄の扉があるから、そこに向かって師範の名前を呼んでくれる?数秒後には扉から師範と伊黒さんが来てくれる。その後は逃げてくる女の人を誘導して外で待機ね。行くよ」
楓が小さく頷くのを確認すると、風音と楓は反対方向に全力で動き出す。
予知通り鬼は楓には目もくれず風音の後を追い掛け、捕まえようと手を伸ばした。
「残念だったな!そっちは行き止まりだぞ!あぁ、やっと俺の嫁になる決心をつけてくれたんだな!閉じ込めて子を成すまで持て成してやる」
「あんたのお嫁さんなんかになるわけないでしょ!私は実弥さん以外のお嫁さんにはならない!」
命懸けの鬼ごっこは生きた心地がせず、気を緩めれば涙が溢れてきそうになるほどの恐怖を風音に覚えさせている。
……楓を通して自分の未来を見た。
幾つも枝分かれする未来の中で攫われた女性を助け出せる未来を。
しかしその先に一瞬だけ見た自分の未来はおぞましく、思い出しただけでも心臓が嫌な音を立てて胸を叩き、泣き叫びたいほどの感情がせり上がってくる。
「怖い……けど助けないと。これ以上あの鬼に命を奪わせない。攫われた人に平穏な日常を取り戻してもらいたい」
目的地である攫われた女性が閉じ込められている部屋の前に辿り着くと、風音は鬼ではなく自分の腕に日輪刀を当てがって勢いよく滑らせた。