第8章 力と忌み血
「風音!クソ……こんだけ声張り上げても返事の一つも返ってきやしねェ!広さがあるとは言えおかしいだろ!伊黒、手分けすんぞ!」
「あぁ。部屋の隅々まで探せ、隠し通路があるかもしれないからな」
「言われるまでもねェ!」
廃墟の中に足を踏み入れた直後、建物全体に響き渡る声で何度か風音を呼んだが応答はなく、連れ去られているはずの女性たちの声はおろか物音一つ響かない中、二手に分かれての捜索は人命を優先した柱二人の判断である。
「あの時と立場逆じゃねェか。ただ匡近の時みてぇに変な匂いはない。んなら幻術の類の血鬼術じゃなさそうかァ?……虱潰しに探すっきゃねぇのかよ!」
走りながら技を放ち襖や障子を切り裂いては中を確認する。
どうやら小芭内も同じ手段を用いているようで、反対側からも派手に物が壊れる音が鳴り響いてきた。
「あっちもまだ見つけてねェか。糞鬼の根城なんざどうなってんのか知れたもんじゃねぇけど、この屋敷は平屋だ。てことは上に部屋は存在しねぇ。あるとすりゃあ……地下」
ただの憶測に過ぎない。
しかしその憶測もこの時ばかりは間違っていないように思えた。
念の為実弥が受け持った屋敷の半分の部屋の捜索を終わらせ、風音や被害者がいないことを確認して立ち止まる。
「こっち半分吹き飛ばしてやる。爽籟、一旦こっから離れろ!風音は俺が連れ帰ってやるから心配すんなァ」
実弥の近くで羽を動かしていた爽籟は一度相方の肩に止まって頬に頭を擦り寄せると、朽ちて壊れた壁の隙間を通って外へと避難した。
「景気良くぶっ飛べェ!風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐!」
鋭い無数の風の砂塵は軽い襖や障子だけでなく、畳や屋敷の壁をも破壊しては空へと舞い上がらせ、幾度か技を放つと屋敷の半分はほぼ丸裸となっていた。
もう半分は……と後ろを確認すると、小芭内も同じことを考え行動したようで実弥が受け持った屋敷の半分と同じく丸裸となっている。
つまり声を張り上げなくても互いの姿が視認でき、地下を探すにはもってこいの環境と相成ったのだ。
「伊黒ォ、怪しい扉見つけたらすぐ知らせてくれ。急ぐぞ!」
「あぁ、こっち側は任せろ」
こうしてようやく本格的な捜索に乗り出した。