第8章 力と忌み血
実弥の体が僅かに離れ自分を見ているような気がして顔を上げると、例えようのない物悲しい表情をして見つめている実弥と目が合った。
「気になるよ。でも人には触れてほしくないところもあると思うから……私に聞かせたいなって実弥さんが思うまで聞かないって決めてるの」
そう言葉を紡いだ風音の表情は驚くほどに穏やかで優しく、言えずにいた過去を話してしまいたいと思えた。
「……今日の任務が終われば話す。絶対生きて帰んぞ」
「はい!もちろ……ん?!実弥……さん。何を……」
予備動作など全くなかった。
気合い十分に実弥にキリッとした表情を向けた直後、隊服の第一釦が外され首元に実弥の顔が埋められており、呼吸をする度に刺激され体が意思とは関係なく震える。
「印、付けていいって言ったよなァ?」
「う……ん。でも何をするかを……んっ」
いいと言われたからには止めるつもりはない。
そう言うように実弥の舌が風音の首筋から鎖骨付近まで這い、そこでピリとした不思議な痛みがもたらされた。
呼吸が浅くなり脳は溶けるのではないかと思うほどに熱くなる。
それらが風音の体から支える力を奪い去り、実弥に支えてもらわなければ倒れてしまうところだ。
不思議な痛みにふわふわと思考も奪われていく……と思っていたところに、既視感を覚える出来事が風音を襲った。
「煉獄、ふざけんな!なんでいつもテメェはいい所で目を塞ぎやがんだ?!」
「前にも言ったが人のこうした行為を興味本位で見てはいけない!なに、心配するな!俺も目を瞑っているし伊黒は後ろを見ている!宇髄だけが見ていないわけではないぞ!」
三人の登場はある意味で風音から思考を奪っていった。
前回と同じく顔を真っ赤にして実弥の背中をポコポコと叩くが、やはり首元から離れてはくれない。
「さ、さ、実弥さん!天元さんと杏寿郎さんと伊黒さんが……んんっ!来てくれて……います!恥ずかしい!」
「クソが……伊黒は分かるが何で毎度毎度アイツらはこんな時に来やがんだ」
やっと首元から唇を離してくれたと思えば、その場で言葉を発するものだから実弥の吐息が肌を刺激して体が震えてしまう。