第8章 力と忌み血
「本当だ!全員の流れてくる情報を上手く捌くことが出来れば、私が先回りしたりして鬼に攻撃できる……けど、実弥さんみたいに強くならないと難しくない?」
「今のお前じゃ出来ねぇから出来るようにすんだろ?心配ねェ、俺がみっちり鍛えてやっからよォ。分かってると思うがお前の任務で出てくるような鬼なんてほぼお目にかかれねぇと思っとけ。気ィ抜いた瞬間命ねェからなァ」
嬉しい実弥の提案は突如として恐ろしいものへと変化した。
しかしよく考えなくとも柱の任務なのだから、下っ端剣士である風音が一人でこなせるような任務であるわけがない。
「命……頑張ります!せめて実弥さんの足手まといにならない程度には。……明日、無事に帰ってこうやってまたお風呂に浸かれたらいいなぁ」
遠い目をして遥か彼方を見つめる風音の額にピンと僅かな衝撃と痛みがはしる。
何事かと実弥へと視線を戻すと、額を弾いたであろう指で風音の顔の横で揺れる後れ毛を弄んでるところだった。
「?どうしたの?」
「無事に帰れんに決まってんだろうが。何がなんでもお前だけは守ってやるよ。目の前で誰も死なせねぇ、これ以上死なせてたまるか」
まだ最終選別と数回の任務しか経験していない風音であっても鬼に傷付けられ、命を奪われた人を見ているのだ。
数年間鬼殺隊に属し柱となっている実弥は風音とは比べ物にはならないほどに辛酸を舐めているだろうし……もしかすると仲良くしていた人や想いを寄せていた人を亡くしているかもしれない。
鬼に対して憎しみの映る今の実弥の表情は、大切な人を奪われた人の表情だと思えば納得がいった。
「うん。でも私は鬼殺隊の剣士だから……一般の人たちを優先してほしい。何も知らず突然命を脅かされる怖さは……身をもって経験済みですので」
「……全員助けりゃ何も問題ねぇだろ。まずお前は力の制御を優先しろよ?可能な限り戦闘においては指示出してやっから」
指示を出してくれるならば心強いと風音が頷いたところで、ようやく風呂の時間は終わりを迎えた。
……出る直前、ほんの少し実弥にちょっかいをかけられ赤面したのは風音だけが知ることである。