第8章 力と忌み血
例え気がするであっても大きな一歩に違いないが、切り離したいと思った時にすぐ怒りや喜びの感情で己の中を満たせるものなのかと疑問が残る。
柱たち全員の先を見た時のように痛みを伴わないならばまだしも、痛みを感じているその時に他の感情で満たすのは難しく思える。
「とりあえずちゃんと説明出来たことは褒めてやる。あとはいきなり先が頭に流れてくんのはどうにか出来ねぇのかァ?そのまんまだと日常生活に支障きたすだろ」
それは風音も不安に思っていることである。
今のように実弥に触れて実弥の先を見るように誰かに触れて見えるならまだしも、自分が大切だと認識している人が周りにいるだけで先が見えてしまっては戦闘はもちろん、私生活で不都合だ。
それより何より相手が嫌な思いをする可能性が高い。
「今のところ方法が分からないんです。周りの方々に嫌な思いをさせたくないからどうにか阻止したいんだけど……」
「柱のヤツらは事情知ってっからどうとでもなる。そこは気にすんな、それより合同任務出た時の心配しろよ。一気にその場のヤツらの情報流れ込んできて何人も怪我でもしてみろ、お前が無事じゃなくなっちまう」
その状況を想像して風音は身体を震わせる。
実弥や柱たちほどの力量があれば、鬼に他の剣士たちが傷付けられる前に対処出来る可能性がある。
しかしまだまだ鬼との戦闘において経験不足な風音ではそれは難しく、また剣士たちも様々な階級の者がいるので怪我をする剣士はいるはずだ。
「そうですよね……今更だけど未熟な私には手に余る能力だなぁ。せめて感覚共有さえなければもっと扱いやすかったけど……嘆いていても仕方ない!どうにかならなくてもどうにかしないと剣士続けれないから頑張ります!」
気合いは十分。
そんな風音へ実弥はひとつの提案を掲示した。
「明日任務入ってねェだろ?明日から風音が任務入ってねぇ時は俺の任務と警備に着いて来い。お前の能力は使いこなせりゃ共闘に向いてんだ。やる気あんならどんな手を使ってでも解決策見つけろ」
力を持て余し活用方法まで考えられなかった風音にとって実弥の提案は寝耳に水で、何より嬉しいことだった。
焦燥が滲み出ていた表情はパッと花が咲いたように明るくなった。