第8章 力と忌み血
恥ずかしさはあるものの受け入れてもらえたことが嬉しく、風呂場を出ていく実弥を見送ったあと風音は身に纏っていたものを脱ぎ去り、丁寧に畳んで桶のなかに待避させてから急いで体を洗った。
そして戸の隙間から手ぬぐいを受け取って体に巻きつけ湯船へと体を沈みこませた。
自分が思っていた以上に体は冷えていたらしく、少し熱いくらいのお湯は風音の胸の痛みや羞恥心を流れさせてしまった。
「実弥さん、大丈夫です!どうぞ!」
ヤケに元気な声音に実弥の溜め息が聞こえた気がしたが、今の風音にとっては瑣末なことである。
……瑣末なことだったのに、実弥が手拭い一枚だけを腰に巻いた姿を目にした瞬間、全身の血が沸騰したかのように一気に体温が上がった。
「……何顔隠してやがる。見るに堪えねェもんは何もないと思うがなァ」
「見るに堪えないじゃなくて……私、そう言えば男の人の体見るのってお父さん以外初めてで……見ちゃいけない気がしました」
ふわりと
風音の好きな実弥の匂いが間近で舞い思わず顔を覆っていた手を外すと、本当に実弥の顔が目と鼻の先にあり心臓が胸を突き破らん勢いで強く打ち始める。
「顔、真っ赤じゃねェか。恥ずかしいなら後ろ向いてろ。無理に見る必要ねェし」
そう言って実弥は風音の返事を聞くことなく背を向けて髪や体を洗い、それを呆然と眺めていた風音の隣りにいつの間にか身を沈みこませていた。
「意外と体冷えてるもんだなァ。お前も肩まで浸かれ、体冷えてんじゃねぇか」
浴槽の縁に手を置き固まっていた風音の上半身は外気に触れて冷えており、胸元へ抱き寄せた実弥の体温を僅かに下げさせた。
「不躾ながら実弥さんの後ろ姿を見てて、綺麗だなぁって思ってたの。私も実弥さんみたいな体になりたいのに、全然同じようにならない。基礎鍛錬が足りないから?」
恥ずかしさはどこへやら…… 風音は広い浴槽に足を投げ出して実弥の胸元に体を預け自分の腕や体を見下ろす。
どこをどう見ても実弥に追いつけるものは見つからず、残念そうに小さくいきをつく姿に呆れながらも、今度は実弥の体温が徐々に上がっていった。