第8章 力と忌み血
余程動揺しているらしく、敬語で弱々しく言葉を発する風音に苦笑いを浮かべると、自分にも落ち葉や泥が付くのも構わずふわりと抱き上げた。
「泣くなァ。洗えば取れんだから落ち込むことねェだろォ。風呂に入る前に井戸で粗方落としてくぞ。洗ってやるから大人しくしとけェ、分かったなァ?」
「うん……お願いします」
落ち込む風音を前に笑ってはいけないと必死に堪えるが、見れば見るほど蓑虫にしか見えずどうしても口元が動いてしまう。
しかし落ち込んでいる風音はそれどころではないので、実弥の笑いを堪えた表情に気付いていないのが実弥にとって救いだった。
「うっし、後は体の液体取るだけだァ。……家ん中歩きゃ掃除大変そうだなァ。てか服脱げんのか?」
盥の水を使って洗ってやると、どうにか泥や落ち葉は全部取れた。
しかしやはり水だけではどうしても液体は取れず、風音は身動きがあまり取れない状態である。
「……脱げない!どうしよ、その前にお家の中にすら入れない……実弥さん、どうにか頑張って落とすから先に休んでて?私の不始末は私でなんとかするので!」
汚れが落ち気持ちを持ち直したのかキリッとした表情をしているが、どう考えても一人で対処出来ず、朝まで庭で立ち尽くす未来しか見えない。
「あのなァ……あぁ……めんどくせぇ、動くな騒ぐな暴れんなァ。風呂に運んでやっから服のまま取り敢えず流せ。髪は洗ってやっから、液体取れたら体は自分で洗えよ?いいな?」
「え?!一緒にお風呂入るの?!心の準備が……」
「……色気もクソもねェ。……まァお望みとあらば一緒に入ってやらァ。いいか、暴れんなよ?」
風呂のことはともかく、実弥に放置されてしまえば風音本人がどのような結果になるのか分かっているので、血走った目でねめつけてくる実弥に頷くしか出来なかった。