第8章 力と忌み血
「あれ?鬼殺隊の隊服。じゃあさっきの鬼はあの人の任務で倒す鬼だったのかな?……私が倒してよかった?」
倒してはいけなかったと言われたとしても、既に風に流されて消えてしまったのでどうしようもない。
まだひよっこもひよっこで今の行動が間違っていなかったのか分からない風音の背中に冷や汗が伝い、こちらへ走りよって来ていた剣士に勢いよく頭を下げた。
「「すみません!」」
声が被った。
風音は鬼を倒してしまったこと、相手は鬼を取り逃していたことに対して謝罪したようだ。
「いえ!鬼はなんと言いますか……幸いにもすぐに倒せたので!横取りしてしまって……」
「いやいや、こっちこそ雑魚鬼なのに取り逃して……しまって……大丈夫か?全身べたべたしてるみたいだけど……あれ?あの鬼って血鬼術使えてたっけ」
風音の顔を覗き込んできたのは少し年上と思われる青年の剣士だった。
その剣士は風音の悲惨な状態に眉を下げて、体にまとわりついているよく分からない液体を指先でつついている。
「さっきの鬼は使えなかったと思います。これは私の任務の鬼に頭から被らされた液体で……あまり触らない方がいいかと。得体の知れないものですし……手はこの通りです」
右手は日輪刀の柄に握った状態で固定されており、左手は当て布として使用していた手拭いの切れ端がはりついている。
「うわぁ……なんかゴメン。俺が取り逃したからだよな?せめて家まで送るよ。家どこ?藤の花の家紋の家に行くの?」
責任を感じた剣士は変わらず眉を下げたまま、促すように風音の前を歩き出した。
確かに二体目の鬼でこうした事態に陥っているが、そもそも一体目の時に自分が失態をおかしたからこその事態である。
促され足を進めたものの、送迎はお断りすることにした。
「大丈夫です!お家に帰ろうとしてたんですけど……あ!爽籟君!こっち!」
申し訳なさそうにへにょんと下がっていた風音の目尻は、一羽の鎹鴉、仲良しの爽籟の姿が見えたことによって元の位置に戻って満面の笑みとなった。
「え……爽籟?なんか聞いたことあるような……」
「お手紙ありがとう。あ、今私の肩に止まっちゃダメ!貼り付いてとらなくなるからね?剣士さん、この子は爽籟君。柱の一人の不死川さんの鎹鴉です」