第8章 力と忌み血
しかし風音とて一度贈った物を簡単に
はい、そうですね
と受け取るなど出来ない。
押し付けられる筆入れたちを押し戻した。
「私は実弥さんだから渡してるんだよ?今までは私の心を支えてくれていた物だけど、今私には実弥さんが居てくれる。だから今度はこれを実弥さんに使って欲しい。お守り代わりだと思って!」
どうあっても手元に戻すつもりはないらしい。
押し戻してくる手は開いており、実弥がこのまま受け取らなくては床に落下してしまう。
「お守りってお前……分かったから泣きそうなんなァ!……大切に使わせてもらう」
ようやく受け取って貰えたことに風音は悲壮な表情からニコリと笑顔になり、いそいそと鞄の中から予備のものと思われる筆入れを取り出した。
「これが私の!これは小さい時にお母さんとお父さんからもらったんだ。あんまり使わないようにしてたけど、正に今使う時だよね!フフッ、実弥さんと文通楽しみ!」
「……文通」
こうして実弥は文字を取得し、無事に熱の下がった風音と共に家へと帰宅してそれぞれの任務に赴いた。
感覚の共有の切り離しについては帰ってから話す約束をして。
そして任務地にて。
風音は無事に鬼を倒し帰路に着いているところである。
全身ネバネバさせながら。
「こんなことあるんだね。ブーツの裏が落ち葉でいっぱい。すっごく滑りやすい……今鬼が出てきたら大変。足は滑るし日輪刀握ったら柄から手が離れなくなっちゃう……って言ってたら出てくるもんだよね。ここら辺は鬼が集まってるの?」
山の中を懸命に歩いていると前方に一体の鬼。
元々山という事もあり足元が悪いのに、先ほど倒した鬼の血鬼術で全身が糊まみれみたいにされてしまい動きに制限が掛けられている。
ほんの少し文句を言っても倒さなくてはいけない現実は変わらない。
風音は左手に当て布を挟み両手が動かなくなる事態を回避して鬼を見据えて構える。
「君のせいで私は帰り道抜刀の構えのまま帰らなきゃいけなくなったんだからね……いきます、風の呼吸ーー」
滑る足を慎重に踏み締め鬼へとふわりと技を放ち、頸と胴を一瞬で違わせる。
何が起こったのか分からず塵となる鬼に祈りを捧げ足を踏み出すと、再び前方に影がよぎった。
鬼かとも思ったがどうやら人のようである。