第8章 力と忌み血
続けざまに衝撃的なお言葉。
何をどうやって感覚を切り離せたのか聞きたかったが、今の風音の望みは引き続き自分に抱きしめ続けてもらうことだ。
いつになれば薬を飲んでくれるんだと心の中で溜め息を漏らしながらも、心身共に弱りきっている風音の望みを断ってまで叱ることは出来ずにいた。
「お前はすげぇなァ。誰にも教えてもらえねェのに自分の力だけで成長しちまうんだから。……すげぇ風音に俺からの願いを叶えて欲しいんだが」
「んーー?実弥さんの願いは何でも聞くよ。教えて?」
「薬飲め。いつまでも熱ありゃあお前も辛ぇだろ。今の俺の何よりの願いなんだがなァ」
「……はい。お薬……取ってきます」
もぞもぞと動き実弥の腕の中から這い出そうとする風音を布団の中に押し込め、実弥は鞄を取って風音の前に戻った。
「解熱剤……あ、これかァ?」
鞄の中を漁っていると幾つか紙の袋が見つかり、その一つ一つに綺麗な字で何の薬かを示す文字が書かれており、風音に確認しなくとも目当ての薬を見つけることが出来た。
それを一つ手に取ると風音を自分の体にもたれかけさせ、口の中に解熱剤を流し入れ水を飲ませてやる。
それを終始大人しく受け入れた風音は飲み終わると実弥に顔を向け、ニコリと微笑んだ。
「ありがとう。あと一時間もすれば元気になるから待っててね」
待つのは一向に構わない。
夜は任務があるが朝昼はとくに用事らしい用事がないから。
それより実弥は風音が書いたであろう、袋の文字に釘付けになった。
「なァ、元気なったら俺に字教えてくんねぇかァ?俺は読めんだけど書けねぇんだ。字書けたら……お前に手紙書いてやれんだろ?任務終わる度に手紙を爽籟に預ける」
絵だけの地図を見た時に何となく字を書くのが苦手なのかなと思ってはいた。
しかし実弥自身がそれを言わなかったし、書けなくても何ら問題ないので特に字について触れることはしていなかった。
それが今は風音に手紙を書くために憶えたいと言ってくれている。
「実弥さんはどうして私が喜ぶ事分かるの?実弥さんからのお手紙なんて嬉しいだけだよ!もちろん、私で実弥さんの力になれるのなら喜んで。実弥さんなら……すぐに覚えられるよ」