第7章 初任務と霞柱
何が実弥のこうした行動に繋がったのか分からないものの、口付けしてくれたり抱き締めて貰えることは風音にとって何より嬉しく幸せなこと。
大好きだと伝わるように背に腕を回した。
するとそれに応えるように風音を抱く腕の力が増し、それに伴って口付けも深くなる。
「んんっ、ふ……」
苦しげな風音の声が実弥の鼓膜と脳を揺らし、ようやく実弥は頬を真っ赤に染めた風音を解放した。
「ふぅ……実弥さん。私、今すごく幸せ。実はね……お父さんのことを聞いて実弥さんの家から出た方がいいんじゃないかって思ってた。下弦の鬼を父親に持つ私が実弥さんの継子だなんて……実弥さんに幸せを感じさせてもらうだなんておこがましいって」
「……で、結論出たのかよ?」
「まだ……分からない。でも実弥さんが私と実弥さんを繋ぎ止める存在を迎えてくれた。……私が落ち込んでるからって理由だけであの子たちを迎えてくれたわけじゃないよね?」
実弥は何も答えはしなかったが、家から出ていくなというようにギュッと抱き締め直し、風音の頬に自分の頬をそっと触れさせる。
そこには温かさだけでなく、風音の瞳から流れ出ていた涙の冷たさがあった。
「私は幸せを感じちゃいけないんだって……被害者の方々へ罪滅ぼししなきゃって思ってるのに、実弥さんに口付けしてもらったり抱き締めてもらえると……幸せだって思っちゃう。ずっと側に……いたいって思っちゃうの。こんなに罪深い人間なのに……一人になるのが嫌だって……」
悲しい心の叫びが実弥の胸に突き刺さり、怪我をしていないにも関わらず胸に激しい痛みをもたらした。
「風音は風音だろうが。父ちゃんは下弦の鬼かもしれねぇが、それをお前が背負い罪滅ぼしするのは違ェだろ。父ちゃんの罪は父ちゃんが背負い責任持たなきゃなんねェ。そんな自分追い込むな、潰れちまう……」
口付けをして押し倒したのは違う理由からだった。
お館様やしのぶから聞かされていた無一郎の記憶障害の件。
記憶障害の影響で感情が希薄で物事に興味を示すことが難しいと聞かされていたのだ。
その無一郎に僅かながらであっても感情を引き出せた風音が凄いと思ったし、そんな少女が自分を選び側にいてくれる事が誇らしく愛しいと感じた。