第7章 初任務と霞柱
風音のように言葉で伝えられたらよかったが、生憎言葉で伝えることは実弥の苦手とするところ。
それでもどうにか伝えたいと思うと、勝手に体が動き口付けをして押し倒していた。
それが結果的に風音をギリギリのところで自分の元へ繋ぎ止められたのだから、自分の口下手も悪くはなかったと思えた。
「今のうちに泣いちまえ。一人で泣いて俺ん家飛び出すくれぇなら俺の前で泣いて俺の側にいろよ。時透とも約束してただろォ?待ってるって言ったなら待ってなきゃなァ」
いつもより低く優しい実弥の声音は風音の瞳から涙をとめどなく流させ、我慢の糸をプツンと切れさせた。
自分にしがみつき声を上げて泣く風音を胸に抱いたまま起き上がらせ、自分にもたれ掛けさせて楽な姿勢を取らせてやると、温かさを求めるように背に回していた腕を実弥の胸元で縮こませて襟元を握った。
(どんだけ溜め込んでたんだよ……もっと早く気付いてやれてたらよかったなァ。……時透、お前との約束がコイツを繋ぎ止める要因の一つになった……感謝しねぇと……)
「なァ……もっと俺に甘えろよ。無理に笑う必要なんてねェ。辛くてどうしようもねェ時は泣いて縋ってこい。お前の笑顔は好きだけどよォ……笑顔の裏で泣いてんだと思うとやり切れねェ……お前が俺の言うこと聞かず父ちゃんの罪背負うってんなら、俺も一緒に背負ってやるから」
どうしていつも厳しいのにこんな時は優しくしてくれるのか。
突き放してくれれば笑顔に戻っていつも通り何もなかったように振る舞えるのに……
好きだと言ってくれる笑顔を実弥に向けられたのに。
「反則です……私の作ってた壁を実弥さんは軽々と乗り越えるだけじゃなく、全部壊していっちゃう。実弥さんの前では笑顔でいたい……私を思い出してもらう時は笑顔の私を思い出してほしかったのに……」
「風音が俺ん家を出て行かなけりゃ、思い出さなくても笑顔見れんだろ。出ていく前提で話を進めてんじゃねェよ、馬鹿。簡単に俺から離れられると思うな」
言葉遣いは相変わらずぶっきらぼうなのに、それさえも風音からすれば愛しく幸せな涙を流させるものだった。
どれほどの時間涙を流したか……それさえも分からなくなる頃、心身共に限界を迎えた風音は実弥の腕の中で意識を手放した。