第7章 初任務と霞柱
金魚を手に入れた帰り道で手に入れた手頃な籠に入ったカブト君、改めシナ君を機嫌よく眺めていた実弥の額と頬に血管が浮き上がった。
「テメェ、いい度胸してんじゃねェかァ。言うに事欠いてシナだと?!馬鹿にしてんのかァ?!」
「してません!私の金魚たちが私とお揃いの名前なのに、実弥さんのカブトムシだけカブト君だと仲間外れみたいで可哀想でしょ?だから今からシナ君で。決まり!時透さん、素敵な名前だと思いませんか?」
怒り目まで血走らせた実弥。
それに臆することなく満面の笑みの風音。
二人を前にして無一郎は首を傾げキョトン。
「名前なんて何でもいいと思う。戦力にならない金魚とカブトムシの名前は識別出来れば何でもいいんじゃない?」
淡白な返答に実弥は思うところがあるようで、悲しげに一瞬瞳を揺らせた後にシナへと視線を戻し、風音は無一郎の手を取って握り笑顔を深めた。
「名前には様々な意味が込められていると思うんです。例えば無一郎さんの無の文字だと、無限……など計り知れない可能性を秘めた言葉に繋がる文字です。ご両親が時透さんの未来を想い付けられたと思うんです。こんなに小さくて弱い子たちでも、私たちと繋がりを持ったからには意味を持たせてあげたい。……私の自己満足ですけどね」
ほんの一瞬。
瞬きをしていれば見逃していたであろうくらい一瞬だったが、風音の言葉に無一郎が僅かに反応を示し瞳に光が宿った。
「名前……そう言うならその子たちはそれでいいと思う。僕そろそろ帰るよ。休みたいし……手、離してもらっていい?」
「はい。また……ご一緒して下さいね。シナ君もヒイちゃんもラギちゃんも、実弥さんも私もいつでも歓迎します。遊びに来てください」
ふわりと微笑みもう一度手をギュッと握ってから無一郎を解放する。
「……気が向いたら。僕、すぐに忘れちゃうから覚えてたらね。じゃあ」
部屋に入ってきた時と同じく無一郎は淡々と部屋を後にしたが、ほんの少し感情が宿っているように見えた。
それが嬉しくこの喜びを実弥に伝えようと振り返ると、唐突に唇に温かく柔らかなものが触れ、間近には実弥の顔。
口付けをされているのだと気が付いた時には体を押し倒され、風音の瞳には実弥と天井のみが映し出された。