第7章 初任務と霞柱
思ってもみなかった実弥の言葉に風音の時間が止まり、店に入る一歩手前で完全に停止した。
「……去年見てたろ?欲しかったんじゃねェのかァ?」
「お迎え……したいなって思ってたけど、あそこは実弥さんのお家だし……ダメかなって。本当にいいの?」
聞いてはいるものの嬉しさのあまり固まっていた体は徐々に落ち着きをなくし、今にも実弥の腕を引っ張って店の中に飛び込みそうな勢いだ。
「好きなもん家に置いて構わねェっつってるだろ。……いらねェなら籠買って……」
「い、いる!お迎えしたい!あのね、ほっぺたが膨らんでる子か赤い子がいいの!一緒に選んで下さい!」
興奮から敬語を混じらせてグイグイと店の中へと実弥を引っ張る風音に苦言を呈することなく、実弥は引かれるまま店の中へと入っていった。
「私に似てるかなぁ?そんなに似てると思わないけど……時透さんも似てると思いますか?」
ブツブツ呟き金魚の入った水槽を覗き込む風音。
水槽の中には風音の希望通りのほっぺたが膨らんでいる金魚と、よく見かけるちいさな赤い可愛らしい金魚。
どちらにしようか永遠と悩んでいると実弥から
「膨れっ面のお前にそっくりじゃねぇか。こっちにしとけよ」
と失礼極まりない言葉を言われたが、お迎え出来る喜びから妙に納得した風音は、ほっぺたが膨らんだ金魚を選んだのだ。
その様子が微笑ましく、また去年の事を覚えていた優しい店主がおまけにと赤い可愛らしい金魚も小さな水槽にいれてくれた。
そうしてご機嫌で水槽を抱えて歩いていると、偶然にも居合わせた無一郎が興味深そうに金魚を眺め出したので、一緒に自分たちが泊まる宿にやってきて今に至る。
「……分からない。不死川さんが似てるって言うなら似てるんじゃない?」
「だとよ。時透のお墨付きも貰えたんだァ、名前はお前と同じ名前にしとけよ」
誰も味方になってくれない。
何なら実弥は同じ名前にしろと言ってくる始末だ。
「……何か納得いかない。分かった、じゃあ名前はほっぺたが膨らんでる子がヒイ、赤い子はラギにする」
「ハハッ、いいじゃねぇかァ!」
「カブト君は今からシナ君に改名。不死川さんの上二文字とってシナ君ね!」