第7章 初任務と霞柱
そう言われて周りを見ると、何故だか自分たちの周りにたくさんの人が集まっており、実弥が言う通りその多くの人が笑いを堪えていた。
「……ここらへんに珍しいお店があるの?人がいっぱい……」
居心地悪そうに実弥の腕へ体を寄せて忙しなくキョロキョロと辺りを見回しても人しか見えず、歩き去っていく者がいたかと思えば新たに立ち止まる者が現れるので人が減る気配がない。
実弥とて鬼に囲まれたことはあるが人に囲まれるなど経験したことがなかったので、少し不安げに見上げてくる風音に苦笑いを向けて肩を抱き寄せ脚のみ呼吸の技の構えを取った。
「しっかり掴まっとけよォ。突っ切んぞ!風の呼吸 漆ノ型ーー」
「え……突っ切るって?わわっ!……アハハッ!高い!」
技名と風音の声が重なり周りの人々にはそれが聞こえなかったが、聞こえてたとしても実弥が何をして朝焼け色の髪を持つ少女ごと宙を舞ったのかは分からない。
それでも太陽の光を反射して鈍く鋭い銀色に光を放つ髪を持つ青年と柔らかな金色の髪の少女の相対的な色は人々の目を奪い、着地してから二人して凄まじい速度で走り去る様を姿が見えなくなるまで目で追っていた。
「あー、楽しかった!実弥さんやっぱりすごいね!私じゃ一人でもあんなに高く飛べないもん!」
僅かな時間の空中散歩を楽しんだ風音の表情から不安の色はなくなり、今にも実弥に抱きついてしまいそうなほどに楽しげで頬が薄紅色に染まっている。
「そりゃよかったなァ。だがあれくらい一人で飛んでもらわねェと技が中途半端になっちまうだろ。まァ、帰ったら嫌って言うほど扱いてやる……っと、ここ入んぞ」
なぜかいつも余計な一言を言ってしまうがために日々の鍛錬が厳しくなってしまう。
普段なら顔を引きつらせていたが、今は少しでも早く強くならなくてはいけない風音にとっては有難い言葉である。
そしてそれにひっそり喜んでいるところに、更に風音を興奮させる実弥の言葉と行動に風音の髪が喜びを表すかのようにふわりと舞った。
「金魚のお店!実弥さん、見ていいの?」
「ん、あぁ。見るだけじゃなくてしっかり好きな奴選べ。連れて帰んだからなァ」