第7章 初任務と霞柱
泣いたところでどうにもならないと分かっていながらも、誰もいない部屋にいれば気が緩んでしまう。
鬼殺隊の隊士にも一般の人にも被害を及ぼしている父親のことを考えると胸が抉られるような痛みをもよおし、泣きたくなくても涙がぽろぽろと零れ落ちては畳へとシミを作っていく。
「どうして私はこんなに弱いんだろ。……あれ?弱いなら泣いてる場合じゃなくない?うん、今の私で倒せないなら少しでも早く強くなる努力しないと!ここでも基礎の鍛錬なら出来るんだし!」
流れた涙を腕で拭い気持ちを奮い立たせると、いつも実弥と一緒にしている基礎鍛錬の準備を始めた。
好都合なことに今着用しているのは隊服なので、あとは手ぬぐいを手元に用意して準備完了……と思ったところで、開け放っていた窓からブンと何かが侵入し、胸に抱いたままだった羽織に降り立った。
「?!?!なに……ってカブトムシ?どうしてこんな所にカブトムシが?……ま、いっか!実弥さんの代わりに側にいてくれてるんだと思えば心強い……かも!ではカブト君、応援よろしくお願いします」
カブトムシの止まった羽織をそっと畳の上に置いて頭を下げると、日課となっている基礎鍛錬を開始した。
その珍妙な姿を実弥が目にするのは二時間後の話。
「戻った……って何してんだァ?!あ"!しかもテメェ、そのふざけた羽織……の上に何乗っけ……?!」
柱合会議から戻った実弥の頭では処理し切れない情報が一気に脳内へ流し込まれ、汗水流しながら懸命に基礎鍛錬を行う風音に心做しか目をキラキラ輝かせながら説明を求めた。
「お帰りなさい、実弥さん!今の状況はね、少しでも早く強くなるために基礎鍛錬をする私と、その気持ちを奮い立たせてくれるコロ羽織に、その上にいるのは窓から飛び込んできたカブトムシのカブト君。もぞもぞ動いてるけど全く飛び立たなく……て。実弥さん?」
説明している途中から実弥がソワソワしているなぁ……とは思っていたが、説明後に目を輝かせながらカブトムシに歩み寄る姿を見た風音はビックリである。
「カブトムシじゃねェかァ!おぉ……大人しい奴だなァ」
怒りの象徴である羽織を……と言うよりコロ羽織の上に乗ったカブトムシを刺激しないように優しく持ち上げている。