第7章 初任務と霞柱
優しかった父親の頸など本来なら斬りたくはない。
しかし元鬼殺隊の剣士でありながら鬼とされ、その後はその時の力を活かして今度は人を狩っているのだ。
放っておくことなど出来るはずもないし、鬼になりたくなかったと悲しんでいた父親は自分の手で……と思っていたが。
「未だに消息は掴めていないものの、鬼となった功介による被害がここ数日で爆発的に増えてしまっているんだ。辛うじて生きて戻った剣士によると、風音を出せとうわ言のように呟いているとのことだった」
衝撃的な言葉に涙は止まったが、それと同時に風音の全ての動きも止まってしまった。
息をしているのかすら分からないほどに微動打にしないので、実弥は近くに歩み寄って肩を叩く。
「息してねぇじゃねぇかァ……それだけは忘れんな」
「う……はぁ、はい。師範、ありがとうございます。もう……大丈夫です」
そう呟く風音の体は震えており、誰が見ても大丈夫な状態ではない。
しかしお館様と全柱の前で取り乱してはいけないと必死に地面に崩れ落ちそうな体を立たせている。
あまり先を聞ける状態には見えないが本人は真っ直ぐお館様を見据えているので支えてやることすら憚られ、実弥はせめてもと震える背に手を添えた。
その手の温かさが自我を失いかけていた風音の意識を繋ぎとめ、どうにか言葉を発する。
「私を……探しているのですね。記憶をなくしているのに……名前だけ……でも被害が拡大しているということは……死傷者が増えているということですよね?つまり私が父を倒したいと願っていても……今の私では到底敵わない力をつけている……んですよね?」
鬼は人を喰えば喰うほど力を付けると実弥から教えてもらった。
あの日、父である鬼を取り逃してから被害が拡大しているということは、あの時より更に強くなっているのだ。
雑魚鬼に近いただ血鬼術を使うだけの鬼ですら手傷を負わされている風音に倒せる存在ではなくなってしまった。
「そうだね。今の風音では倒せない。十中八九命を落としてしまう。風音は特異な血の影響で余程のことがない限り鬼に喰われてしまうことはないけれど……私たち鬼殺隊は風音を失うわけにはいかないんだ」